第30話

地鳴りのような振動が塔を包み込む中、石扉が轟音と共に破られた。

黒い霧が雪崩れ込み、その中から幾つもの影が姿を現す。


「ようやく追いついたか」

漆黒の外套をまとった男が一歩前に出る。

その背後には、無数の手下たちが槍と剣を構え、塔の内部を埋め尽くした。


「手紙を渡せ。封印はお前たちの手に余る」


ユウは剣を握り直し、一歩前へ。

「渡さない……! これは俺に託されたものだ!」


「託された?」

男は嗤う。

「愚かだな。お前が持つからこそ、世界は破滅に近づく。

 我らが持てば、封印は保たれるのだ」


「……それは言い訳だろ」

リナが冷ややかに言い放つ。

「欲しいのは“力”。違う?」


黒衣の影の男の目が細く光る。

「ならば力ずくで奪うまで」


その号令と同時に、影の軍勢が一斉に襲いかかった。


ユウは前に出て剣を振るい、カイが鋭い爪で敵を弾き飛ばす。

ノエルの魔法が光の壁を作り、リナの双剣が隙を突いて敵を斬り裂く。

ガロウは敵の中心に切り込み、セリナが後衛を守り抜いた。


塔全体が戦場と化す。

だが戦いの最中、封印された存在はなおも光を放ち、鎖を軋ませ続けていた。


ユウは歯を食いしばる。

(手紙を守らなきゃ……! でも、このままじゃ――)


その時、黒衣の影の男が狙い澄ましたようにユウへと迫った。

「鍵は渡してもらうぞ!」


黒衣の影の男がユウへと斬りかかる。

しかし、その刃は空を切った。

「ユウは渡さない!」


ノエルが放った光の矢が男を弾き、ユウの前に輝く壁を張る。

続けざまにカイが飛び込み、爪と牙で敵の懐を強襲した。


「行け、ユウ! お前は手紙を守れ!」


「でも――」

ユウが言いかけた瞬間、リナが彼の背を押した。

「迷うな、ユウ! あんたは守られてる。だから剣を振るえばいい!」


仲間の声に背を押され、ユウは剣を構え直す。

次の瞬間、ガロウが鋭い一撃を幹部に叩き込み、セリナが炎の魔法で敵の軍勢を押し返した。


「全員でかかれば、勝機はある!」

ガロウの声に、一行は頷き合った。


黒衣の影の幹部は苛立ちを隠せず、影を操って塔の空間全体を覆おうとする。

「くだらぬ絆ごときで、我を倒せると思うか!」


ユウは剣を掲げ、仲間たちの気配を背に受けた。

「俺は一人じゃない! みんなと共に戦う!」


カイの突撃が敵の注意を引き、ノエルの魔法が動きを封じる。

リナが鋭く切り込み、ガロウとセリナが畳みかける。

そして最後に、ユウの一撃が黒衣の影の男を貫いた。


「ぐっ……!」

幹部は黒い霧となり、塔の闇に溶けて消えていった。


静寂が訪れる。

だが、安堵する間もなく、封印の存在の鎖が大きく軋みを上げた。


「……まだ終わってない」

ユウの言葉に、全員が再び前を向く。


塔の奥、光を帯びた手紙がゆっくりと浮かび上がり、淡い輝きが空間全体に広がった。

まるで呼応するように、封印の鎖がひとりでに軋みを上げ、重々しい響きが大地を震わせる。


「……これは……映像?」

ノエルが目を細める。


目の前に広がったのは、過去の幻だった。

広大な大地を覆う黒い霧。

そこから生み出される無数の魔物が人の街を襲い、炎と絶望が辺りを覆い尽くしていく。


しかし同時に、霧を祓うように立ち向かう光の戦士たちの姿もあった。

彼らは一丸となって黒き存在を封じ、最後には命を賭してその力を鎖に閉じ込める。


「……これが、封印の正体」

ガロウが苦渋に満ちた声で呟いた。


だが映像はそこで終わらなかった。

鎖に閉じ込められた存在が、静かに人間たちを見つめる。

その瞳には、憎悪と共に、どこか悲しげな色が宿っていた。


「人間が……恐れて封じた……でも、本当は……」

リナが唇を噛む。


幻は淡く消え去り、再び塔の中に静寂が戻る。

しかし全員の胸に残ったのは、ただの恐怖ではなかった。

「封印されたものは、悪意だけの存在ではない」――その確信だった。


ユウは剣を握り直し、仲間たちを見渡した。

「俺たちは……これを解き放つべきなのか、それとも守るべきなのか……答えを出さなきゃいけないんだな。」


塔の奥、光を帯びた手紙がゆっくりと浮かび上がり、淡い輝きが空間全体に広がった。

まるで呼応するように、封印の鎖がひとりでに軋みを上げ、重々しい響きが大地を震わせる。


「……これは……映像?」

ノエルが目を細める。


目の前に広がったのは、過去の幻だった。

広大な大地を覆う黒い霧。

そこから生み出される無数の魔物が人の街を襲い、炎と絶望が辺りを覆い尽くしていく。


しかし同時に、霧を祓うように立ち向かう光の戦士たちの姿もあった。

彼らは一丸となって黒き存在を封じ、最後には命を賭してその力を鎖に閉じ込める。


「……これが、封印の正体」

ガロウが苦渋に満ちた声で呟いた。


だが映像はそこで終わらなかった。

鎖に閉じ込められた存在が、静かに人間たちを見つめる。

その瞳には、憎悪と共に、どこか悲しげな色が宿っていた。


「人間が……恐れて封じた……でも、本当は……」

リナが唇を噛む。


幻は淡く消え去り、再び塔の中に静寂が戻る。

しかし全員の胸に残ったのは、ただの恐怖ではなかった。

「封印されたものは、悪意だけの存在ではない」――その確信だった。


ユウは剣を握り直し、仲間たちを見渡した。

「俺たちは……これを解き放つべきなのか、それとも守るべきなのか……答えを出さなきゃいけないんだな。」


幻の映像が揺らめき、ユウたちの前に二つの光景が広がった。

ひとつは、封印の中心に縛られた存在が、境界を必死に押さえ込む姿。

もうひとつは、別の大地に鎮座する黒い塔のような装置から、次々と魔物が生み出されていく光景だった。


「……っ、どういうことだ?」

ノエルが声を震わせる。


ガロウは険しい顔で映像を見つめた。

「わかったぞ……魔物を生み出しているのは“封印されたもの”ではない。

 同じ原理を持つ“別の存在”、あるいは装置が、どこかで起動しているのだ。」


「つまり、あれは“抑える者”。」

カイが低く呟く。

「だが同じような力を持つ“解き放つ者”が、今まさに動いている……そういうことか。」


リナは小さく笑う。

「人間は一方的に“災厄”として封じた。

でも本当は――善と悪、どちらの可能性も秘めていたってわけね。」


ユウは胸に手を当て、手紙から漏れる淡い光を感じた。

「……この手紙は、ただの届け物じゃない。

 真実を知ったうえで……俺たちに“選ばせる”ためのものなんだ。」

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