帰り道

秋犬

夜道は、危険

これは姉の友人から聞いた話です。仮にAさんとしておきましょう。


ある初夏の日、Aさんは部活の大会前で熱心に練習していたため、すっかり帰りが遅くなってしまいました。Aさんは真っ暗になってしまった道を急いで自転車を漕ぎながら走っていたそうです。田舎の道ですから人通りもなく、たまに車が傍を走っていくくらいでした。


ふと、Aさんは恐ろしい噂を思い出しました。夕方遅くなると、この辺りには子供の好きな神様がいて、帰りそびれた子供をさらってしまうという言い伝えです。家に早く帰るよう大人が子供に言い聞かせるための作り話だと思いましたが、それでもAさんは気味の悪いことだと思いました。


「助けてくれ」


その時、何処からともなくしわがれた声が聞こえました。Aさんは自転車を止めて、辺りを見渡しました。そこは大きな用水池のそばでした。道路のアスファルトにはヒビが入り、その周辺の空き地には背の高い草が生い茂っています。自転車のライトの範囲に、人影は見えませんでした。


「たぁ、す、けぇて」


Aさんは背筋が凍る思いでした。このままでは神様に連れていかれてしまう。


「おい、ちょっと待てよ」


自転車に飛び乗るとAさんは全力でペダルを漕いで家に向かいました。家の明かりを見て、Aさんはほっとして涙が出たそうです。


次の日、また自転車で学校に向かう途中の道に警官がたくさん立っていました。どうも、例の用水池で遺体が見つかったそうです。死亡時刻は昨夜の午後7時から8時頃、Aさんがちょうど用水池の脇を通りかかった時刻です。


Aさんが恐ろしいと思って学校に行こうとすると、警察の服を着た人に自転車を掴まれ、呼び止められました。


「あー、君は自転車で通学しているのかい?」

「は、はい」

「それじゃあ、昨日ここで殺人事件なんて、見ていないよね?」


Aさんはドキリとしました。昨日のことを思い出し、恐ろしくなって「知りません!」と叫んでAさんはそのまま学校へ向かいました。


それから恐ろしくなったAさんは自転車通学を止め、その道をなるべく通らないようにしました。


それから何年も経って学校を卒業したAさんは、とあるニュースを見て驚いたそうです。連続殺人犯として逮捕された男の顔に見覚えがあったからです。


その顔は、あの時警察の服を着て声をかけてきた男でした。


〈了〉

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帰り道 秋犬 @Anoni

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