点と線を結ぶ

岸亜里沙

点と線を結ぶ

中里なかざとさん、何か有力な証拠もの見つかりましたか?」


刑事の吉島きちじまは、先輩刑事の中里に話しかける。


「これだけ部屋が荒らされているって事は、犯人は何かを探していたんだろう。金目のものには手をつけてないから、おそらく犯人にとって不利益な何かだ」


この事件は昨晩、あるマンションの一室の住人が殺害され、部屋が荒らされていたというもの。

現場に出動した中里と吉島は、現場に犯人の痕跡があるか、犯人に繋がる手がかりが残されていないかを捜査していた。


ありとあらゆるものが床に乱雑に散らばっており、二人は慎重にひとつひとつ確認していく。

そんな時、中里があるノートを手に取り、パラパラとページをめくると、中里は徐々に険しい表情に変わる。


「中里さん、そのノートどうかしたんですか?」


吉島が中里にたずねる。


「このノートは怪しいな。ちょっと見てみろ」


中里はそう言ってノートを吉島に手渡す。

吉島がノートを開くと、そこには子供が書いた落書きのような、ペンの試し書きのような線と点が書いてあるだけだった。


「なんですか、このノート?子供の落書きでしょうか?」


吉島がページをめくりながら言う。


「これが何か分からないのか?」


「もしかして、秘密の暗号とかですか?」


吉島が言うと、中里は苦笑いを浮かべる。


「まあ、そう見えなくもないな」


「中里さんは、このノートに何が書いてあるか分かるんですか?」


「何と書いてあるかは分からんが、何が書いてあるかは分かってる」


吉島は首をかしげる。


「えっ?どういう事ですか?」


「これは、速記そっきだ」


「速記?」


「知らんのか?速記は、言葉を簡単な記号や符号にして、人の発言を記録したりする時に使うものだ。国会や法廷での発言を記録したりな。一見、ただ線と点だけを適当に繋げて書いたように見えるが、きちんとした法則で書かれているんだ。このノートは、おそらく被害者が書いたもののはずだ。速記の記し方を知っていた被害者が、何かしらの極秘情報を残している可能性があるな。他人に見られたとしても大丈夫なように、速記を使ったのだろう」


中里に言われ、吉島はノートを改めて見てみた。


「こんな線と点だけの記し方で、文章になっているんですか?」


「多分な。俺も書いてある内容までは分からないから、速記が出来る者に解読を依頼しよう」





速記で記されていたのは、被害者が勤めていた会社の汚職に関する内容だった。

その後、この速記のメモを頼りに、会社役員の犯人が逮捕された。犯人が速記を知らなかった為、汚職の告発を綴ったこのノートを見過ごしたようだ。

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点と線を結ぶ 岸亜里沙 @kishiarisa

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