第3話 元イケメンが傷を隠すリハビリメイク愛用

 古田が口を挟んだ。

「千尋ちゃんの今のその話、オレに当てはまってるよ。

 実はオレ、元暴走族一歩手前のヤンキーだったんだ。

 この顔のケガも、バイクの無免許運転が原因だったんだよ」

 村木兄さんが昔をなつかしむように言った。

「古田君は、おばあちゃん子で小学校のときは優等生だったな。

 数学が得意で学級委員も務めてたくらいだったな。

 しかし、中学二年からヤンキーデビューしたんだよな」

 古田は頭をかきながら答えた。

「ちょうどあの時、両親がもめててね、オレは別居していたおかんの気をひくために、タバコを吸ったりし始めたんだ。

 好奇心というより、大人の仲間入りを果たしたような気分だったな。

 それからは、ヤンキー街道まっしぐらになってしまった」

 村木兄さんは、薄笑いを浮かべながら言った。

「そうかあ、おかんの気をひくための手段だったんだなあ。

 まあオレは、超優等生でもなかったが、資格試験は頑張ったよ。

 おかげで漢字検定や文書検定共に2級、珠算検定や簿記検定まで取得したっけ。

 まあ、将来食いっぱぐれないための手段だったけどな。

 古田君は、イケメンだったから女の子にはモテたよなあ。

 バレンタインデーには、小学校のときからチョコレートが十五個くらいもらってたっけなあ。うらやましい限りだったよ。

 それに足が速かったから、運動会のときはいつもリレー選手でトップだったなあ。女の子から歓声があがってたよ」

 古田は笑顔を浮かべながら言った。

「今となったら過去の栄光だよ。

 今のオレはこの通り、事故で負った火傷の傷を村木君から教わったリハビリメイクでごまかしてるんだよ。

 村木君には本当に感謝してる。リハビリメイクがなかったら、オレもしかしてひきこもりになってたかもしれないよ」

 村木は同調して言った。

「そうだなあ、オレが見舞いにいったときはすっかり落ち込んでたよなあ。

 だからオレは聖書をプレゼントしたんだ。

 オレの好きな御言葉

「この世には悩みがある。しかし私はこの世に勝っている」(ヨハネ16:33)を読んで聞かせたよな。

 私というのは、イエスキリストのことだよ。

 いつの世にも悩みがあるが、イエスキリストと共にこの世に置いてけぼりになることはなくて、救われるよ。

 事実オレは、リストラの憂き目にあったあと、祈ったら新しい職場が見つかったよ。

 また古田君が退院したあと、再び非行に走るかもしれないと内心不安だったが、

「神によって生まれ変わった者は、罪を犯し続けない」(第一ヨハネ5:18)を信じたよ。

 人によっては、イエスキリストを信仰した後でも罪を犯す人もいるけど、二度目は罪を犯そうとしてもできなくなってしまう場合もある。

 たとえば暴力をふるっていた男性が、信仰したあとで暴力をふるおうとしても、なぜか腕がしびれて動かなくなってしまったという話を聞いたことはあるよ。

 またアルコール依存症の人が、洗礼を受けたあとで酒を飲もうとしたら、非常に酒がまずく感じ、二口目は飲めなくなってしまったという話も聞いたことはあるよ。


 事実オレは、今まで就職に困ったときは

「すべてのことは、イエスキリストによって益となる」(ローマ8:28)

の御言葉を信じ、祈ると自分にあった新しい職場が見つかったよ。

 といっても、オレは学歴は調理師学校中退だし、大したキャリアがあるわけではない。でも、不思議と自分にあった職場がみつかり、今は中華料理店で鍋を振ってるよ」

 古田君は、なつかしむように語った。

「ああ、そういえば村木君はバイトしながら調理師学校に通っていたが、入学して二か月目のゴールデンウィークあたりからか、バイトの方が忙しくて通えなくなってしまったと行ってたな」

 村木兄さんは少々恥ずかしそうに言った。

「ホントいうと、学費が払えなくなってしまったんだ。

 だから、二か月で中退せざるを得なかった。

 でもその後、三年の調理経験を経た後、試験を受けたら見事合格して、調理師資格を取得したよ」

 古田君は昔話をするように言った。

「そういえばオレは、小学校のときは優等生で算数が得意だったが、理不尽な体罰担任に反抗して三日間くらい、学校に行かなかったことがあったな。

 担任から電話をもらって、おかんにあやまってもらった。

 今の時代なら、体罰なんて許されないけどな」

 村木兄さんもなつかしそうに答えた。

「今、不登校が増加の一途を辿ってるけど、やはり教師への不信感が大人への不信感へとつながっていくな。

 まあ、古田君は負けず嫌いなので、一応担任とも和解したけどな。

 担任曰く、古田君は僕の言うことを聞かないので、身体で覚えさせるしかなかったなんて言ったそうだけど、そんなの今の世の中では通用しないよな」

 古田君は答えた。

「あの頃から、オレは負けず嫌いだったなあ。

 でも、事故で顔を火傷したとき、本気で死を考えたよ。なぜあのとき、殺してくれなかったんだとおかんを責めたり、オレよりも悪党が世の中にのさばっているのに、なぜオレだけがこんな目にあわなきゃならないんだと、世の中の不条理を感じたものだよ。

 しかし、オレは悪党の人相を見ているうちに気づいたことがある。

 いくら目鼻立ちは整っていても、なんとなく雰囲気が違うんだよなあ。

 悪事を働いたら、人相が悪くなり、人間嫌いになるということが。

 だから、人相の悪い男よりも、とっつきやすい陽気な人相でいたいな。というかいるべきなんだ」

 村木兄さんは、小声で言った。

「古田君は、事故にあう前、得意のイケメンを生かしていろんな女性とつきあってただろう。二股かけるなんて朝飯前だったよな。

 だから、古田君が顔の事故にあったのは、浮気された女の呪いだったかもしれないなんてふと、思ったものだよ」

 古田君は答えた。

「事故にあったのは、高校を卒業した一か月後の十九歳だった。

 あの頃のオレは、頭の中はピンク色だったし、裕福でもなかったから、防犯カメラの死角を狙ってTシャツを万引きして捕まったこともあったな。

 もし十九歳のままの生き方を続けていたら、今に罰が当たってとんでもない災難に巻き込まれてかもしれないな。

 事故にあったのは、もしかしたら神様がオレにセーブをかけてくれてたかもしれないな」

 村木兄さんはうなづいた。

「古田君は、小学校時代からお調子乗りのところがあるからな。

 それにイケメンだったろう。悪党にかかって、女性を誘惑した後、売り飛ばすなんてことに利用されてたかもしれないな。

 女性客に肝臓や腎臓を売って売掛金にあてろ。お前の身体が五体不満足になろうとオレ達の知ったことか、外国で働いて来いなんて言う悪質ホストの二の舞になってたりしてな。あっ、これはオレの勝手な想像、ごめんなすって。失礼しやした」

 千尋も含め、村木兄さんと古田君と三人で大笑いになった。

 千尋はあくまで見学の立場なので、これで退散することにした。


 それと引き換えにフロアレディーが古田君の席についた。

「私がなぜ、フロアレディーになったのか、そのわけを教えましょうか?」

 古田君と村木兄さんは、黙って聞いていた。

「遺産相続に失敗しちゃったというか、当てが外れちゃったのよ」

 古田君はピンときたように答えた。

「もしかして、自分の実父が二度目の父で、その兄弟の子供にも代襲相続が発生したなんて。あっ、これは最近見たDVDだけどね」

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