「お先に」
歩いた方が早いと思うんだけどな…。
「構わないですけれど…、それじゃ荷物積む間待って貰えます?」
「うん、待ってる♥」
「分かりました!」
だからその♥は何なんだ?
さて荷物は何処に積むか?、大した荷物じゃ無いけど何時もシートに括り付けてる、乗せられる様にしないといけないし…。
後で移動すれば良いか!、タンクに荷を乗せネットで固定し声を掛ける。
「乗って下さい!」
「ハイッ♥」
先程と同じ様にスムーズに乗り腕を廻される、荷物も仮固定なのでゆっくり走り出し坂を昇り切ってUターン、CBの所に到着しエンジンを切りお姉さんを降ろした。
「ありがとう!」
言葉を受け取る時は眼を合わせて呉れたが、僅かな時間なのに頬に光る跡に気が付くが何も聞ける訳も無い。
「大した事じゃ無いですよ」
「でもありがとう!」
「それじゃ帰ります」
「私はもう少し此処に居ます」
「お先に」
もう顔はコースを向いてる、顔に残る跡に気付かれたく無いのだと思う、気付かぬ振りでエンジンを掛ける。
「ねぇ森田くん、又此処に来るよね?」
「前に言ったと思いますが暫くは此処に通います、休みにはなるべく来ますが次に休日と重なるのは多分来月の半ばですね。」
「判った♥」
「それじゃまた!」
堤防の上を走り出しミラーには手を振る姿が映る、あのお姉さんとは
このXTに深い思い入れが有る事だとは思うが、必要が有れば
翌週の平日の午前、6号線から側道へ逸れて堤防の上を走ってます、本日は休み!、コースへ練習に向かってます、天気は上々で練習日和なんですがね…、昨日は晴れたけど一昨日は一日中雨、コースが乾いてれば有り難いんですが、此ればかりは実際にコースを見ないと何とも言えないんだよね…。
(。・_・。)
堤防にバイクを停めて上からコースを見てますが、手前は確認出来るけど背の高い雑草に阻まれ奥の方が見えません…、実際にコースに入って見るしか無さそうですね。
何時も通り堤防下に荷物を置いてコースイン、手前は少し手応が重い位でソコソコ乾いてる、奥に進むとドロドロヌタヌタだが未だ行ける、その奥のコーナーは完全な水溜りでライン取り間違えるとスタックするのは間違い無い、然も其処で転倒した日にゃ…。
取り敢えず一周して一旦戻る、さてどうするかな…、まあ良いかドロドロに為っても洗うのは俺だし、今日は平日で他にコースを走ってる者も居ない、然らばコースイン!、思いっ切りスロットル開けコーナーだろうがウォッシュボードだろうが、ガンガン突っ込んで行く、最初の5周は問題無し既に跳ね上げた泥でバイクも服の背中もドロドロ、空冷フィンの詰まりもソコソコで未だ行ける、一息入れて再度コースインし順調に周回を重ね5周目ウォッシュボード前のコーナーで速度が乗り切れずコブの上で上下に激しく揺さぶられる、勢い失った儘で最終コーナーへ、そうヌタヌタドロドロの中へ勢いを失った儘で進入、転倒こそしなくて済んだがスタックし
顔と手は持参した濡れタオルで何とか為ったが身体が泥塗れなので服の方は此の儘着替える訳にも行かないし…。暫くコンクリ製のブロックに寝転び自然乾燥に任せ昼寝を決め込む。
眼を閉じると思い出す、何年前になるんだろうかGRで合羽を持たずに出掛けた先、スコールの様な雨の中を突っ切り雨のカーテンを抜け海沿いの堤防の上に寝転んだ、濡れた服を真夏のお天道様の元で自然乾燥した日。
真夏とは言え海風が流れて意外と涼しいんだ、アノ頃の真夏は暑いと言えど30度を超えた辺り、今の様に35℃を越えて40℃に迫る気温とは違ってる。屋外で麦わら帽被って一日中表で川や海や山に入って遊び倒し、夜には飛び交う蛍を追いかけ樹液を吸いに来るカブトムシやクワガタを捕りにも行った、今もアノ地では大して変わらんのだろうな…。
俺は夢をやっと掴んだが引き換えに失ったモノが在る、何かと引き換えに出来る様なモノでは無い大切なモノを。
次は早く一人前に成って大手を振って
ブルっと震えが来て目を覚ます、何時の間にか雲が出て陽を隠してる、暖かな日差しを受けてシッカリ寝て居た見たいだ、御蔭で懐かしい風景を見ていた気がする、さてすっかり乾いたみたいだし引き上げるか、まぁ此の後は此ドロドロに為った服の泥を落とすのに格闘する事になるんだし…。手早く荷物を纏めてシートに括り付けコースへ来た道を辿って行く、途中で買出しを思い出すがこの服で店に入る訳にも行かないし、顔も拭いたとは言え泥でパックしたみたいだからしょうが無い。
風呂場で服を水洗いし洗剤の入ったバケツに放り込む、泥塗れの服は一度洗った位じゃ落ちやしないからな。
『マー坊!あんたね~誰が洗うと思ってんの!』
なんて鬼の様に怒られたのか?其れとも…。
『まー坊はしょうが無いな~』
ニコニコ笑って洗ってくれたのか?
厭々もう他所の人、今更だよなぁ…。
さて頭から泥被ってるから風呂に入って来るか、何にしても先ずは身体の泥を落とさないと。
風呂から上がりバケツの中身を濯ぐが未だ落ちない…、水を替えまた漬け置きしその間に夕飯の準備、冷蔵庫には買置きのジンジャーエールと牛乳、後は昨日の残りの冷やご飯…、オカズに成りそうな物は無し、戸棚を漁るが缶詰すら無い、在るかと思っていた高菜漬けのパックも無い…、有れば胡麻油で炒めるだけなのに…、戸棚の奥からインスタントラーメンが一つ出て来た此れで晩飯は何とか為った!
\(^o^)/
晩飯を済ませバケツの中身を確認したんだが…、後は洗濯機に一任!、もう良いどうせ明後日は休刊日で休みで買出しは其の時で、又コースで汚すんだし大体落ちてれば良いや、洗い終わって濯いだ時点で水を替え2度目洗いに突入させて布団に潜り込む。
「おやすみ…」
聞く者も居ない部屋に響く俺の声…。
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