綺麗なお姉さん!
運び続ける事の意味は?
冬も本番更に今日は一番の冷え込みと予報が出ている、走行してれば気合も入り多少の寒さ等気に為らぬ、今屋外で何時上がって来るか判らん記事とフィルムを待っている。
外務省、週刊誌用の作家さんの家、馬新聞の購入、そして今居る代々木、是で本日4回目の乗務で今日は是が最後の乗務だろう、勿論施設の中で待機していても全く構わない、他社の者は中にて待機してる、俺も最初は中で待機していたが余りに重い会場内の雰囲気に居た堪れず、記者とカメラマンに伝え表に停めたVTの処で待機してる。
こんな大都市東京を中央から見渡して先進国と呼ばれる事を肌で感じる、だが今取材で来ている事は大戦で起きた負の遺産と言うのが相応しいかも知れない。
此の乗務は締めの時間にも距離も全く急がない、今日は近場ばかりで終わりそうだ、無心で走れる乗務は今日は無かった。
つい先程迄建物の中に居たのだが中に居たら明と暗がハッキリと分かれ、大多数の待つ者が抱く不安が渦巻く会場内、メンタルが柔らかい豆腐並の俺はその雰囲気に吞まれて仕舞いそうなのでVTの処まで戻って待機する事にしたんだ。
今居る場所は大陸から縋る様な期待を抱き、見知らぬ故郷の地を踏んだ日本人の方々、別れの際に渡された小さな御守り、姓すら判らぬ肉親の名、中には歌い聴かされた幼き頃の子守り歌、伝い聴かされた見た事すらも無い故郷の景色、其の手懸りを頼りに肉親に逢える事を夢見る日本人の方々が居られる、年齢がかなり上の方も居られそれ程の時間が経ていると言う事。
大戦で肉親と別れ大陸に残されて仕舞った日本人、此の地で肉親が見つかり日本に帰れる事を願って居られる、其の手懸りと別れた時の記憶と場所、中には里親の付けた名で日本の名すら判らぬ方も居られる。
俺は此れから其の方々の切なる手懸りが載り、姿が写っている物を運ぶんだ。
俺は恵まれて居る、休みと時間と金さえ有れば故郷へ帰れる。俺の帰りを楽しみに待って呉れる家族が居るんだ、幸せなんだよな…。
そんな事を考えてたら声を掛けられる、艶の有る綺麗な声だった。
「オートバイ見せて貰っても宜しいですか?」
振り返ると首に身分証明を掛けた此処のスタッフらしき女性が立って居る、御世辞抜きに綺麗な女性…。
「構いませんよ」
別に断る理由も無い、そう答えを返す。
「有難う御座います!」
頭を下げそう言いグルッとゆっくり一回りし、興味深そうに見つめている、是って
「触っても?」
と言ったのでこの後に続く言いたい事は判って居る。
「勿論、何なら跨っても構いませんよ、まだ暫く待って居なけりゃ為らないですし」
そう伝えると雰囲気がガラッと変わる。
「ありがとう!」
今までの畏かしこまった物が無く為る。
「あたしも、乗ってみたいな~」
そう呟く声が聞こえる。
「座らせてもらいます!」
ペコッと頭を下げ、薄手の
コートの上からでもスタイル良いのは解ったが、出る所出て
「失礼します!」
(≧∇≦)
と言って下着が見えるのも構わず跨った…。
是って現実の事なのか?アニメや映画で見た世界が目の前に在った!、
(・・? シタモッテナンノコト?
「いいな~、戻っても乗れないんだもんな~」
変な事言ってるよな?、と疑問に思ったが中から他の女性が出て来て直ぐに答えが解る。
現れた女性達が何を言っている理解出来ない、中から出て来られた女性達は綺麗では在るがお顔は大陸の方々、目の前の日本人にしか見えぬ女性も同じ言葉を喋って居る。
「有難う御座いました、良い思い出に為ります!」
と言って深々と頭を下げた。胸元深く見えていたが、その奥にも下着は見えなかった。
(´ε`;)ウーン…、ドコミテタノ?
「私の国でも日本のオートバイに乗れる日が何時か来れば良いのですが…」
少し寂しそうな表情、続けて出た言葉は仕事のモードに戻っていた。
「此れから、レセプションなので失礼致します」
コートを羽織り他のスタッフに混じった時には言葉は中国語に戻って居た。
「是で全部だ、頼んだぞ」
ほぼ同じく声が掛かる、締め迄には時間は充分有ったが気合が入る、俺がこれから運ぶ物は見慣れぬ故郷への帰還を切に望む方々の其の望みと繋がる物、必ず無事に届ける!。
気合を入れるに十分な理由、スタートし渋滞の中を大台近い速度ですり抜け続けて本社に帰り着く。
然し其の後も何度か代々木にピックアップに向かったのだが彼女に会う事は二度と無かった、多分本国へ帰って行ったのだろう。彼女が乗れる日が訪れれば良いなと思っていた…。
ホントに綺麗な人でした、最後に言葉が出るまで日本人と疑わなかった、日系の方だったのか会場に居られた方々と同じく日本への帰依を望まれて居た日本人なのか?、今では其れを知る由も無いですが…。お国の事情は其々に有るんですよね…。
『付録』
今は全く関係の無い仕事だがとある日、市に所属されるケアマネジャーからの仕事の依頼が入る、出向いた場所に居られたのは高齢の御夫婦、御名前は日本名だが声を掛けるが伝わらない、遅れて現場到着のケアマネの通訳で漸く申し出内容が判明し保守作業を行なう、作業行う
中国残留孤児の御夫婦で言葉が不自由、其れで本日は立会いに来たと。新聞の記事で親戚が見つかり日本に帰化されたと教えて頂いた。
勿論俺が運んだ物かは判らぬが、俺達地を走る伝書鳩達が全力で駆け続けた事にはちゃんと意味が有ったのだと…、俺が其れを知る迄に四十年余りの月日が必要だったのだと…。
『カッペが遂に大都市東京を走る? 現在編!』
「仕事の価値を知る!」
四十年程の後に知る其の仕事の成果。
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