三度目の正直

 時間は9時を回った頃玄関をノックする音がする、此処を訪ねて来る奴に心当たりが無いんだが、町内会のお知らせか?、回覧板に在った町内清掃はもう少し先だと思うんだが…。


 待たせても悪いんで直ぐに玄関に向かい扉を開けると意外な人物が其処に居た。

「よう久しぶりだな!」

「ホント久しぶりだな!」

「あのバカにお前がプレスに成ったって聞いたんでな面拝みに来た」

「タイミング良かったなもう直ぐ出かけようかって思ってた処だ」

「用事が有ったのか?、そりゃ悪い所に来ちまった」

「否良いさ、天気が良いんで河川敷利根川にでも行ってこようかと思ってたんだ」

「利根川?、嗚呼コースか!、でもバイクはオフ用は持って無かったろ?」

「先輩から譲って貰ったXTが在るんだ」

「そう言う事か、お前もオフに目覚めたのか」

「まあな!」

 コイツは大垣、コンビニの後輩要するにあのアホ繋がりで知り合った奴、スタンドに勤めながら夜学に通う高校生だった、此奴が高校を終える学年の時に起きたアノ一件の後は変わらずバイクに乗り続ける俺、美澄の件が終わりガンマを手に入れ一回、此奴が相棒を手に入れて勝負した一回、その直後にアノ一件が起きた、以降何も力に為れなくて顔を合わせ辛くなり暫く会う機会を失っていた、或る時エンデューロに参加するメカニックを引き受けたのが始まりだ…。


「あれがお前の相棒か?」

「社用車だけどな」

「ホントにプレスに成っちまったんだな…」

「何とかな、色々在ったけどさ…」

「お互いにな」

「でもあの時は力に無れなくて済まなかった」

「良いんだよ終わった事だ、其れに警察署ヤツラにお前が捩じ込んで呉れたんだろ?」

「大した事はして無いさ、少し本気で捜す気を起こさせただけだ、其れでもアレは…」

「良いんだ…、アイツの最後を見送れただけで充分さ…」

 哀い顔を捺せちまったな、あの姿は俺でも胸が痛む本気で俺と勝負出来る相棒バイクを手に入れたって嬉しそうに笑ってたんだからな…。


「そう言えば此処にはどうやって来たんだ?、新しい相棒バイクを手に入れたのか?」

「否、俺は未だバイクは手に入れて無いよ」

「ならどうやって?、まさか電車って事は無いよな?」

「バイクだぞ!」

「訳が判らんぞ?」

「俺のバイクじゃ無いお前と一緒さ、表に停めて有るから見た方が早いって!」

 (*^^*)

「俺と一緒?」

 (。´・ω・)?

 そう言い終えると玄関の扉を開けて手招きする、見た方が早いか百聞は一見にしかぬ。


「そうか、そう言う事か…」

「解ったか?」

 其処に止まるバイク、其処にはシルバーのVT250F初期型、俺が初めて借り受けた社用車と同じバイクが停まって居る、俺のVTには付いて無かった物が装備されては居るが。


「そう言う事か、お前も社用車なんだ!」

「そう言う事、俺も職業プロライダーの仲間入りだ!」

「其れじゃ峠の勝負の決着を着けに来たって訳じゃ無いよな?」

「当たり前だ、社用車じゃ出来んだろ!」

「アレ?、メットもアレに替えたのか?」

メットも支給品だ、シールドは自前だけどな」

「お揃いに成っちまったな俺もTJだぞ」

「まぁ仕事人プロ御用達のメットだからな」

 昭栄TJ201V、プレスに配車している最大手の企業は社用車のCBX400Fのカラーリングに揃え、メットも同じカラーリングにしていた、そしてバイクの機動性を生かした民間企業向けにもバイク配送を始めて未だ余り時間の経たぬ頃、そして雨後の筍の様にバイクの宅配業者が一気に増えたのも此の頃だ、此の頃に其の業界ライダー達に広まった言葉が在る…。


「そうかお前はプレスじゃ無く箱屋に成ったんだな、然し滅茶苦茶にバカッ速い配達員だな」

「だろう、配送回数と距離で稼げる歩合制だからな、何れ嫁さんと子供に成るから稼げる仕事を俺は選んだのさ」

「そうだった、お前彼女持ちだったな」

「だから思いっ切り稼ぐんだ、為るべく早い内に迎えて挙げられるように」

「お前なら左程難しい事じゃ無いだろ?」

「ならお前も来るか?、口利きしてやるぞプレスより稼げるぞ!」

「言いやがるな、前と全く逆に為ったな!」

「勝負は先送りに成っちまったが都心で逢った時にはお前には絶対道を譲らんからな!」

「何の事だ?」

「先輩たちから言われてんだ道を譲れって」

「誰にだ?」

「馬鹿かお前は?、御前達プレスにだよ!」

「そうなのか…」

「嗚呼、峠のプライベートは先送りに成っちまったが、都心はお互いの戦場仕事場だからな、仕事の時はお互いに条件は同じだからな!」

「お前の方が不利じゃ無いのか、アノデカい箱を積んでんだぞ?」

「あんなもん全く気に為らんさ、別にスラロームしながら擦り抜けやる訳じゃ無いからな」

「ちゃんと渋滞路の走り方解ってんだな」

「嗚呼、ストレートに走り抜けるからな」

「って事は今日は俺に喧嘩売りに来たって事か?」

「んな訳有るか!、お互いのバイク乗りの仕事に就いたんだ都心で逢おうぜ!」

「そうだな都心仕事場で逢おう!」

「絶対譲らんからな!」

「絶対譲らせるさ!」

 暫く二人で馬鹿笑いしていた、奴の笑う顔を最後に見たのは俺がガンマ、奴がやっと手に入れたMVX、三度目の正直だと決着が着かないままで迎えた南房総の峠の下り、其の時はあんな事に成って仕舞うとは思っても居なかった、お互いが次は負けんぞと思って馬鹿笑いして引き上げた、帰りに飯を食いに行った牛丼屋で散々馬鹿にされたがな、乗り方が不気味だと…。


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