第49話 竜の王子

わー、大きな竜さんの体がどんどん小さくなっていく! 光がきらきらして、目が眩しいな。


光がおさまると、そこにいたのは、さっきまでの竜さんじゃなくて、背の高い、きれいな金色の髪の青年だった。


「……信じられん。まさか、人間が、我らを癒やすとは……」


青年は私の前で深々とお辞儀をしてくれた。


「この度は、大変な無礼を働いた。私は、隣国である竜の国、竜の谷の第一王子、レオンハルトと申します」


「レオンハルト王子……?」


ユリウスお兄ちゃんが、びっくりした顔で尋ねた。無理もないよね、私もびっくりだもん。


「ええ。我らの国で、不治の病が流行し、多くの同胞が苦しんでいます。それを救う薬草を求めて、この森を訪れました。ですが、魔力に汚染された薬草しか見つからず、私の魔力も暴走してしまいました……」


レオンハルト王子は、顔を苦しそうに歪めた。そっか、大変だったんだね……。


「そうだったんだ……。大丈夫、もう、きっと良くなるよ」


私は王子の顔を見て、優しく微笑んだ。


「あなたは、ただの人間ではない……。あなたの魔法は、我らの国のどの癒やしの魔法よりも、温かく、純粋だ」


レオンハルト王子は、私の瞳をじっと見つめて、そう言った。


「あなたは、きっと、我らの国を救ってくれる……」


王子は確信したように言うと、私の前に静かに膝をついた。


「リリ殿。我らの国に伝わる伝説に、こうあります。純粋な心を持つ人間と、竜が心を通わせた時、竜の国に真の平和が訪れる、と……」


王子は真剣な眼差しで、私にまっすぐ向き合った。


「リリ殿、どうか、我ら竜の国の王妃となってはいただけませんか?」


「えええっ!?」


レオンハルト王子の突然の言葉に、ユリウスお兄ちゃんもミーナちゃんも、後ろの護衛騎士さんたちも、みんな一斉に驚きの声を上げた。


「なっ! レオンハルト王子! 何を仰るのですか!?」


ユリウスお兄ちゃんが慌てて私と王子の間に割って入ろうとしたけど、私はお兄ちゃんを手で制した。


「えっと……。私、王妃様には、なれないです……。私、ユリウス王子とミーナちゃんの家族だし、まだ、たくさん作りたいものがあるから……。それに、お父さんやお母さん、おじいちゃんも待ってるし……」


困ったけど、はっきりそう答えた。


レオンハルト王子は少し寂しそうな顔をしたけれど、すぐに立ち上がって、にっこり微笑んだ。


「……そうですか。ですが、諦められません」


「え?」


「リリ殿。どうか、一度で構いません。我ら竜の国に来てはいただけませんか? あなたの力を、我らの同胞を救うために貸していただきたいのです。もちろん、王妃という話は、一度置いておきましょう」


王子は真剣な眼差しで、私にそうお願いした。


王子の瞳の奥に、仲間のことを想う、すごく強い気持ちを感じた。


「うん! わかった! 私、竜の国に行って、みんなの病気を治すね!」


私がそう答えると、レオンハルト王子は、すごくほっとしたような、嬉しそうな顔になった。


「感謝します、リリ殿。必ず、あなたをお守りします」


こうして、私は竜の国の王子様と、新しい約束をしたんだ。ユリウスお兄ちゃんとミーナちゃんは顔を見合わせて、なんだか深い溜息をついていた。また何か騒動が起こるのかな? でも、病気で苦しんでいる人たちがいるなら、私、頑張って治したい!

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