第50話 竜国への道、へっぽこ勇者登場

リリが故郷の森に帰郷してから数日後。


ミーナ、フローラそして護衛騎士たち一行は、竜の国の王子レオンハルトから、彼の故郷が抱える苦難について詳しく話を聞いていました。


「……そうですか。竜の国でも、不治の病が蔓延しているとは」


フローラは、レオンハルトの言葉に、神妙な面持ちで頷きました。


「ええ。我らの国は、長きにわたり、人間界とは交流を絶ってきました。そのため、病に効く薬草は、人間界にしか存在しないものばかりなのです」


レオンハルトは、悲しげにそう語りました。


「それで、薬草を求めて、人間界に……」


「はい。そして、この森に、僅かに存在する薬草を求めてやって来たのです。しかし、人間界の魔力に汚染されており、私の魔力も暴走してしまいました」


その時でした。


「おい! 見つけたぞ! 俺の聖剣を作った小娘!」


森の奥から、聞き覚えのある声が響いてきました。現れたのは、先日ゴードンの工房を訪れた、自称勇者セオドアでした。彼は、どこか憔悴した様子で、リリを見つけると、その顔を歪ませました。


「また、お前か……。懲りない男だな」


ゴードンが、冷たい視線でセオドアを見つめました。


「その小娘は、ただの魔法使いではない! 彼女は、俺が探していた、この時代を救う聖なる存在……!」


セオドアは、興奮した様子でそう叫びました。


「そして! その隣にいる竜は、俺のものだ! 俺こそが、真の勇者! この竜は、俺が討伐し、所有権を得る!」


セオドアの言葉に、その場にいた全員が、呆然としました。


「何を、言っているのですか?」


フローラは、もはや呆れて、そう呟きました。


「決まっているだろう! 竜は、勇者が討伐し、その力を手に入れるもの! この竜も、俺が討伐し、俺の従魔にするのだ!」


セオドアは、そう言うと、剣を抜き、レオンハルトに向かって構えました。


「待ちなさい! あなたは、この竜が誰だか分かっているのですか!?」


が制止しようとしましたが、セオドアは聞く耳を持ちません。


「知るか! これは、俺の使命なのだ! 俺の邪魔をするなら、お前たちも容赦はしない!」


セオドアがレオンハルトに斬りかかろうとした、その瞬間でした。


「おやおや、またお会いしましたね、勇者様」


「相変わらず、お元気なようで」


どこからともなく、複数のモヒカン頭の男達が現れ、セオドアを囲みました。彼らは、リリファンクラブのメンバーたちでした。


「な、なぜお前たちがここに!?」


セオドアが驚愕の声を上げました。


「私たちは、リリ様の安全と、森の平和を愛する者。そして、リリ様と心を通わせた竜を、あなたのような輩に渡すわけにはいかない」


グレンが、にこやかにそう言いました。


「なっ! この卑怯者どもめ! こんな多勢で、俺を囲むとは!」


セオドアが抵抗しようとしましたが、再び、あっという間に取り押さえられてしまいました。


「さあ、勇者様。私たちは、あなたに、もっと大事なことを教えて差し上げなければいけません」


「そうだ! リリ様の偉大さについて、7日七晩語ってあげます!大丈夫です、痛くありません」


セオドアは、悲鳴を上げながら、再び森の奥へと連れ去られていきました。


「あぁ、また連れて行かれちゃった……。なんだか、可哀想だね」


リリは、不思議そうにそう呟きました。


「リリ様、気になさらないでください。あの男は、ああでもしないと、大人しくなりませんから」


ガブリエルが、苦笑しながらそう言いました。


こうして、へっぽこ勇者セオドアとの再会は、呆気なく終わりました。


そして、長期休暇を利用した、リリとレオンハルト、そしてユリウスたちの、竜の国への旅が、今、始まるのでした。

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