第44話 自称勇者、鍛冶屋に言い負かされれる
リリが学園の学期末を迎えようとしていた頃。
リリの故郷、辺境の森の奥深くに、一人の若者が訪れました。金色の髪に、いかにも高価そうな武具を身につけた、自称勇者のイケメン。彼の名は、セオドア。彼は、ゴードンの工房を突き止めるため、長い旅をしてきたのでした。
「おい、そこの お前が聖剣を打ち出した鍛冶師か?」
セオドアは、ゴードンの工房の戸を乱暴に開け、傲慢な態度で言い放ちました。
「ワシに何の用じゃ?」
ゴードンは、静かに鉄を打つ手を止め、セオドアを見上げました。
「決まっているだろう! 俺こそが、この時代を救う真の勇者、セオドア様だ! その聖剣を、もう一度作れ! いや、作ってみせろ!」
セオドアは、そう言って、挑戦的な笑みを浮かべました。
「ふむ……。聖剣が欲しいのか?」
ゴードンは、そう言うと、再び鉄を打ち始めました。
「だが、残念ながら、それはできん相談じゃ」
「なっ! なぜだ!?」
セオドアは、ゴードンの言葉に、驚きと怒りを露わにしました。
「ワシが作った聖剣は、確かに素晴らしいものじゃった。だが、あれはワシの力だけではない。ワシの打ち出した鉄に、あの子の魔力が加わり、偶然にも生まれた奇跡の一品じゃ」
ゴードンは、静かに、しかし力強く言いました。
「あの聖剣は、ワシとあの子の、共同作業の結晶じゃ。同じ鉄、同じ打ち方をしても、あの子の魔法がなければ、ただの鉄の塊にすぎん。そして、ワシは、二度と同じものは作れん」
「なら、その聖剣は俺様が使うのが相応しい、さっさと出せ!」
「聖剣はここにはないぞ。相応しいあるじを見つけて旅立った」
セオドアは、ゴードンの言葉を信じず、さらに声を荒げました。
「この時代を救うのは、この俺だ! 聖剣は、俺のような偉大な勇者のためにこそ、存在するのだ!誰が俺様の聖剣を盗んだ!?」
ゴードンは、静かに鉄を打ち続けました。彼の心の中には、リリの優しさと、その魔法の温かさが蘇ってきていました。
「お前さんには、無理じゃ、あやつは扱えんよ。聖剣は、力を持つ者のための剣ではない。心を持つ者のための剣じゃ」
ゴードンは、そう言うと、静かに作業に戻りました。
セオドアは、ゴードンの言葉に、何も言い返すことができませんでした。彼の傲慢な心には、ゴードンの言葉が深く突き刺さったのです。
「くっ……。この爺さんめ……!」
セオドアは、悔しそうにそう呟くと、すごすごとゴードンの工房を後にしました。
そして、ゴードンは、ただ一人、静かに鉄を打ち続けるのでした。彼の心の中には、いつか、またリリがこの工房を訪れる日を願う、温かい思いが満ちていたのです。
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