第37話 リリはおもてなしがしたい
ユリウス王子の婚約者、エレノアからお茶会に招待されたリリ。その日、リリの屋敷では、メイドのエミリーと静かな攻防が繰り広げられていました。
「リリ様! いけません! 本日はお客様なのですから、そちらの厨房へは行かないでください!」
エミリーは、全力でリリの行く手を阻みました。リリは、きらきらと目を輝かせながら、厨房へと向かおうとします。
「でも、エミリーさん! エレノア様が、私のお菓子を食べてみたいって言ってくれたんだよ! 私が作った方が、きっと喜んでくれると思うの!」
「リリ様のそのお気持ちは、痛いほど分かります! ですが、今回は、ユリウス王子が腕利きの菓子職人を用意してくださっていますから! リリ様は、お客様として、お茶会を楽しまれてください!」
エミリーは、必死に説得しました。彼女は、リリがまた厨房に籠もり、お茶会に遅れてしまうことを恐れていたのです。
「うーん……でも、やっぱり、私が作った方が……」
リリは、納得いかない様子で、口を尖らせました。その様子を見た執事のセバスチャンが、静かに口を開きました。
「リリ様、お客様として、お茶会に参加されることも、大切なマナーでございます。それに、リリ様が作られたお菓子は、また今度、エレノア様を招待された時に、披露されてはいかがでしょうか?」
「あっ! そうか! じゃあ、今回は、我慢するね!」
リリは、セバスチャンの言葉に納得すると、ようやく厨房への執着を捨てました。
やがて、馬車が迎えにきて、リリはエレノアの住まう侯爵邸へと向かいました。
バスケットを持った、エミリーも一緒です。
「エレノア様、本日はお招きありがとうございます。皆さんに食べていただきたくて、お菓子を作ってきました」
リリは、バスケットを差し出します。
お茶会が始まりました。リリは、エレノアと共に、王都の貴族の令嬢たちが集まるテーブルに座ります。
「まあ、噂の魔法使いは、こんなに小さかったのね」
「王女様とご一緒だなんて、どんな魔法を使ったのかしら」
令嬢たちは、好奇心と、どこか軽蔑の混じった視線をリリに向けます。
しかし、エレノアは、そんな令嬢たちを一瞥すると、リリに優しく話しかけました。
「リリ様、本日はお越しいただき、ありがとうございます。ぜひ、私がお気に入りの紅茶を召し上がってくださいな」
「わぁ、いい匂い! ありがとう、エレノア様!」
リリは、紅茶を一口飲むと、笑顔で言いました。
「リリ様のお菓子も美味しゅうございますよ、お茶が一段と美味しく感じますわ」
「ねえ、エレノア様! この紅茶も、私、自分で作れるかな?」
リリの純粋な言葉に、令嬢たちは、思わず笑いを堪えられませんでした。
「まあ! この高価な紅茶を、自分で作ろうだなんて!」
「平民は、本当に図々しいのね!」
令嬢たちの嘲笑に、エレノアは顔を曇らせました。しかし、リリは全く気にする様子がありません。
「この紅茶の茶葉は、どうやって育てるんだろう? 土はどんな土がいいのかな? お日様は、いっぱい浴びた方がいいのかな?」
リリは、紅茶に興味津々で、エレノアに質問を投げかけます。
「リリ様、このお茶は、長年の品種改良を行い、手間ひまかけて育てられ、職人によって焙煎された物です、いくら、リリ様でもおいそれとは」
「でも、リリも美味しいお茶が作りたい。」
「では、今度、産地にご招待しますわ」
「うん、ありがとう。エレノア様!」
そんなリリの様子に、エレノアは、彼女が特別な存在であることを改めて感じました。彼女にとって、紅茶は「高価なもの」ではなく、「自分で作れるかもしれないもの」なのです。根底には、自分でおもてなしをしたいと思っているのかもしれません。
「リリ様、貴方は本当に面白い方ですわね。いつか、貴方の作り方で、貴方の紅茶を作ってみてくださいまし」
エレノアは、そう言って、リリの手を優しく握りました。
「本当!? やったー! じゃあ、今度、私の畑にも遊びに来てね!」
リリは、満面の笑顔で答えました。
エレノアとリリの間に、確かな友情が芽生えた瞬間でした。そして、リリの規格外の純粋さと、エレノアがリリを心から信頼していることを知り、そして、リリのお菓子に魅了されてしまった、令嬢達はそれ以上、リリを馬鹿にすることはできませんでした。
こうして、リリのお茶会は、貴族社会の常識を覆しながら、無事に終わったのでした。
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