第31話 園遊会と厨房の魔法使い

ロゼリア王国の王宮では、盛大な園遊会が催されました。ミーナ王女の回復のお祝いに、国内外から多くの貴族が集い、華やかな衣装を身につけた人々が、談笑しながら庭園を散策しています。


そんな中、ユリウス王子の隣には、彼の婚約者である公爵家令嬢、エレノア・フォン・グリューヴァルトが佇んでいます。彼女は、明るく聡明な顔立ちに、好奇心に満ちた瞳をしています。


「ユリウス様、噂の魔法使い様に、やっとお目にかかれますわね!」


エレノアは、嬉しそうに言いました。彼女は、ユリウスからリリの話を何度か聞いていて、類まれな才能と、その人柄に心惹かれていました。


「ああ、エレノア。彼女は、今日の主役と言ってもいいだろう」


ユリウスが誇らしげに答えます。


「どんな方なのかしら? ミーナ様の病気を治し、聖剣を作り、そして、人々を笑顔にするという……。ああ、早くお話ししてみたいですわ!」


エレノアは、リリとの出会いを心待ちにしていました。しかし、彼女が周囲を見渡しても、リリの姿は見当たりません。


「ユリウス様、リリ様はどちらに? まだいらっしゃらないのでしょうか?」


ユリウスも首を傾げました。


「おかしいな。ミーナと一緒のはずだが……」


その頃、リリは、王宮の厨房で、料理番のアレンと共に、忙しく作業していました。


「アレンさん! もう少しお砂糖を混ぜた方が、もっと美味しいかな?」


「はは……リリ様。このお菓子の、これほど繊細な甘さは、この世界では見たことがありません……。これを『ケーキ』と仰るのですね」


リリは、アイテムボックスから取り出した小麦粉や卵、牛乳などを使って、この世界には存在しない「ケーキ」を作っていました。彼女の「生活魔法」は、一つ一つの素材の持つ力を最大限に引き出し、この上なく美味しく、そして美しいケーキを生み出していました。


「うん! クリームもできたし、あとは、いちごを飾るだけだね!」


リリは、楽しそうにケーキを完成させました。


「そういえば、リリ様……なぜ、あなたがこんなことを……?」


アレンが尋ねると、リリはにっこり笑って答えました。


「だって、せっかくのお祭りだもん! みんなで美味しいものを食べたいし、みんなが喜んでくれると、私も嬉しいから!」


リリは、出来上がったケーキをワゴンに乗せると、ユリウスたちがいる会場へと向かいました。


園遊会の昼食会が始まり、料理が次々と運ばれていきます。その中に、見慣れない、そして信じられないほどに美しい、白いお菓子がありました。

そう、リリが作ったケーキです。


「あれは、一体……?」


見慣れない、料理に貴族たちがざわめき始めます。その時、給仕の格好をしたリリが、ワゴンをユリウスたちのテーブルへと運びました。


「お待たせしました! リリ特製の、イチゴのケーキだよ!」


リリは、そう言って、得意げに丸いホールケーキを切り分けてテーブルに出しました。ユリウスとミーナは、リリのサプライズに、嬉しそうに声を上げます。


「リリ! これは一体?」


「リリちゃん! 美味しそうだね!」


ユリウス達は、一口食べて、黙ってしまいました。


「あの、ユリウス様?ミーナ様?」

「黙って、エレノア、今かつてない感動を味わっているところだ」


エレノアは、ユリウスたちの反応と、目の前の見たこともない美しいケーキに、怪訝な表情で見ていましたが。

一口食べて。

「まあ! なんて甘くて美味しいのでしょう。リリ様、この素晴らしいお菓子を作ったのが、貴方なのですか?」


エレノアが尋ねると、リリは照れたように笑いました。


「えへへ、はい! 私が作ったんだよ! 美味しいですか!」


エレノアは、再びケーキを口にしました。すると、彼女の顔は、驚きと感動でいっぱになりました。


「今度はイチゴの酸味がクリームの甘味と相まって、口の中に広がりましたわ!感動ですわ、一口ごとに味が変わりますわ!こんなに、感動的で心が温まるお菓子は、生まれて初めてですわ……!」


エレノアは、心から感動した様子で、リリの手を握りました。


「貴方が、リリ様なのですね! ああ、お会いできて、本当に嬉しいですわ! よろしければ、今度、私とお茶会をなさいませんか? ぜひ、この素晴らしいお菓子のことを、もっと教えていただきたいのです!」


リリは、いきなり困惑顔で、ユリウス王子を見ます。


「あら、わたくしとしたことが、自己紹介もせず失礼いたしましたわ。わたくし、ロザリア王国、グリューヴァルト公爵家長女、エレノア・フォン・グリューヴァルトと申しますわ、奇跡の魔法使いリリ様。どうぞお見知り置きを」


「リリです、こちらこそよろしくお願いします」







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