第30話 リリ様、今日のレシピは?

王宮の敷地内にある、私の住んでいるお屋敷には、専属の料理番として抜擢された若き天才料理人、アレンさんと、長年王宮の庭園を管理してきた老庭師、マルセルさんがいます。


アレンさんは、王宮の厨房で誰もが認める腕前を持っていて、私の無理難題に挑んでるんだ。いつも、こんな無茶なとか言ってるけど、結構楽しそうだよ。


「はぁ……リリ様、今日は『虹色のポーション』の材料になる野菜を、畑から採ってきてくれと仰るし……」


アレンさんは、籠いっぱいの、見たこともない奇妙な形の野菜とハーブを抱えながら、マルセルのいる庭園へとやって来ます。


「おや、アレン殿。またリリ様からの特別な頼みかね?」


マルセルさんは、穏やかな顔で、アレンさんに声をかけます。彼の目の前には、私の育てた、淡く光を放つ不思議な花が咲いています。


「ええ、マルセル様も、大変でしょう? リリ様が育てられた植物は、どれもこれも規格外で……」


アレンさんは、そう言って、光る花を指差しました。


「ええ、本当に驚かされるばかりだ。この花は、私が長年培ってきた園芸の知識が、全く通用しない。ただ、リリ様が『元気になあれ』と声をかけるだけで、すくすく育つのだから」


マルセルさんは、嬉しそうに、そしてどこか戸惑ったように微笑んでいます。


「しかし、リリ様の作る料理は、本当に素晴らしい。食材の味が、最大限に引き出されている……。私は料理人として、毎日が勉強です」


アレンさんは、苦労しながらも、私のレシピを再現してくれます。それどころか、さらにひと工夫を入れてより美味しい料理にしてくれます。さすがです。


「ふふ、リリ様は、まるで、生きている魔法のようだ。植物も、料理も、人も、みんなを元気にする力を持っている」


マルセルさんが、優しい目で言いました。

みんなが元気だと嬉しいよね。


「まったくです。それにしても、リリ様は、ご自分で何でもなさるので、私たちは、ほとんどすることがない……」


アレンさんは、そう言ってため息をつきました。

そうでもありませんよ、随分助けられてます。



「たまに、リリ様が新しいレシピを考えつくと、私たちを呼んで、試食させてくださるでしょう? それが、唯一の楽しみですな」


「ええ、そうですね! あの、お味噌汁という料理は、本当に衝撃的でした! あれは、世界を変える料理ですよ!」


アレンは、顔を輝かせて言いました。この間が作った「味噌」と、彼が厳選した食材を組み合わせた「味噌汁」は、アレンの料理人としての魂を震わせるほどの美味しさでした。

でも、発酵が足りなくてちょっとしょっぱかったんだよね。


二人は、リリの発想に驚かされながらも、彼女の優しさと、その規格外の才能に触れるたび、自分たちの仕事に誇りを感じていました。そして、いつしか彼らは、リリの料理や庭園を、世界で一番完璧なものにするべく、互いに協力し合うようになりました。


「さあ、アレン殿。この新しいハーブを、ポーションに混ぜてみてはどうです? きっと、もっと美味しいものができますぞ」


「それはいい考えだ、マルセル様! さっそくやってみます!」


二人は、リリの知らぬところで、彼女の生活を支える、大切な仲間となっていたのでした。

みんな仲良しです。

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