第三話

 オレは今、例の日記帳を開いている。


十一月十九日 橋本辰之助は野村貴子に結婚のプロポーズをした。


最初のページにそう書いてある。


なんだ、コレ?

いや、確かに書いてあることは事実だ。

コレ、誰の字?


ここに書いてある字がオレや貴子の筆跡とかデジタルなどの印字であれば納得する。いや、根本的なところでは納得はしないが、とにかく誰の筆跡なんだろう。


まあ、いいか。

神様が書いたってことでいいや。

考えるのも面倒くせえ!


 翌朝、登校するとオレの席には貴子が座っていた。


今日は何の用だろう?


オレは貴子の手を取り、教室の前にある教壇に二人で立つ。


ん、どうゆうこと?


「みんな聴いてくれ。オレは野村貴子と婚約をした。とりあえず報告をする」


なんてことを!

何やってんだ、オレ!


隣に立っている貴子はニコニコ笑っていた。


いや、事前に相談せずに公表したら普通怒るだろ!


 オレはその日、家に帰って日記帳を開き、今朝のことを納得した。


十一月二十日 橋本辰之助は野村貴子との婚約をクラスの人たちに報告した。


そういうことか。

それこそ事前に相談しろ。

心臓に悪い。


 その翌日は土曜日だったがオレは貴子に会うためにいつもの通学ルートを昼過ぎに移動していた。貴子の日記帳では昨日、一昨日とどのように書かれていたのか、どんな筆跡だったのかを確認しようと思い立ったからだ。


十三時半ごろに店に到着した。


「アレ、どうしたの?」


貴子はびっくりした表情をみせる。


客にどうしたのじゃねえよ。


「ちょっとな。その前に日替わり定食」


オレの言葉に貴子は安堵の表情をした。


ひょっとして、今日も何か書いたのか。


オレはカバンの中を確認する。


日記帳忘れてるよ⋯⋯。

これじゃ直接比較できない。


「日替わり定食お待ちどうさま。ひょっとしてお目当ては日記帳?」


勘がいい女だ!


 オレは今、貴子の部屋の椅子に腰掛けている。貴子はというとベットに寝転んでこちらをじっと上目遣いで見つめてくる。


ん、まさか?

下の店には父親もいるんだぞ!


貴子はオレを見つめてきた後に、突然ベットから起きてオレの方に身体を寄せるようにこっちに来る。


「ウッソぴょーん! 今日は日記帳に書いてないよ。びっくりした?」


突然、貴子は日記帳を取り出して言った。


「あのさ、心臓に悪いから事前に何書いたのか教えろよ」


オレはそう言って貴子の日記帳を取り上げる。日記帳を開いて全ページ確認する。確かに昨日と一昨日の事しか書いていない。


十一月十九日 橋本辰之助は野村貴子に結婚のプロポーズをする。

十一月二十日 橋本辰之助は登校直後に教室の教壇で野村貴子との婚約をクラスのみんなに二人で報告する。


筆跡はオレの日記帳とは明らかに違う。


ん、行動も指定できるってこと?


オレはしばらく黙って考え込む。


「どうしたの? 急に考え込んで」


貴子が心配そうにオレの顔を覗き込む。


オレの頭にひとつの疑念が浮かんだ。


一昨日の結婚のプロポーズは本当にオレの意思だったんだろうか?

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