『生徒会室で確かめる』


「ポスター描いてきたんだ。りつ、どう思う?」


 放課後の生徒会室。


 来月の文化祭に向けてポスターデザインを机に広げながら、私は隣に座る後輩、律に意見を求めた。


「うーん、デザインは悪くないですけど。色とかもうちょい派手でいいんじゃないですか? あ。それだと、たまき先輩らしくないか」


「私らしくない?」


「だって環先輩、そこそこ地味じゃないですか」


 二人きりになると、途端にずけずけ言い出す律。いつものように眉をひそめる。


 確かに私は真面目だし、おさげにメガネの委員長タイプ。

 でも、そんなにはっきり言わなくたって。


「だから今のままでも、俺はいいと思いますよ。そういうの、嫌いじゃないし」


 律はそういう子ってわかってるけど、あんまり外見について言われると、やっぱり凹む。


「わ、私だって、おしゃれくらいするよ」


「例えば?」


「例えば……」


 私は慌てて化粧ポーチを取り出し、最近お気に入りのリップを見せた。


「これ! これすごく高いんだけど、すっごく良くて!」


「へー、環先輩もそんなの使うんですね」


 律はメガネの奥で、珍しく興味深そうにこちらを見ている。


「確かに唇、綺麗ですもんね」


「私だって、リップくらい塗るよ。……お、女の子なんだから」


 ようやく言いたいことを言い、私はリップを塗り直した。

 個人的には唯一のおしゃれポイント、だし。


「あ。ちょい借りまーす」


 ひょいっ。


 律が私の手から、リップを奪い取った。


「えっ、ちょっと」


 そして当たり前のように、そのリップを、自分の唇に塗っている。


 ……間接、キス?


 その言葉が頭をよぎった瞬間、顔がかあっと熱くなる。


「か、返して……」


「はい」


 手のひらを差し出すと、何事もなかったかのように、リップをポンと返してくる。


 ……私が、慌てすぎなのかな?


 ……わかんない、けど。


「こ、このリップ、全然落ちないんだよ。さすが高いなって感じ……」


 照れを誤魔化そうと、私は必死に話題を変えようとした。


 でも律は、全然興味なさそうに答える。


「へー」


「ほ、ほんとに落ちないんだから。一日中つけてても全然平気だし、食事したって、飲み物飲んだって、全然余裕で……」


「ふーん」


「だから今すっごく人気なの、このリップ。け、結構するけど、その分効果が」


「そうなんですね」


 またつまらなそうに相槌を打つ律の目が、なんか笑ってる。


「環先輩」


「な、何?」


「本当に、そんなに落ちないかどうか……」


 律が立ち上がり、私の席に手をついて、顔を近づけてくる。


「確かめてみます?」


 頭が、真っ白になる。


 私、また、律に、からかわれてるのかな?


 だとしたら、ひどい、……けど。


 なんだか、それでもいいやって、気がした。

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