『先輩、俺で遊ばないでください。』


「…………またからかいにきたんですか?」


「うん! だって面白いんだもん♪」


 お昼休み。風が光る屋上にはいつものように、静也くんがシュークリームを食べながら座っていた。六個入りのやつが、早くも二個になっている。


 私は彼の隣にちょこんと座る。静也くんは照れたように耳を赤くしていて、今日も余裕で勝てそう。


「またシュークリーム? ほんと子どもみたい」


 そう、赤い耳たぶをつまむ。

 いつものパターンなら、ここで静也くんが「うるさいです」とか言ってますます照れる。

 そんな顔を見るのが、最近の一番の楽しみ。


 でも、今日は違った。


「……先輩も食べます?」


 なんて、たったいま頬張ってたシュークリームを、私のほうに差し出してくる。


「…………」


 私は思わず、そのシュークリームを見つめた。

 静也くんの、口の形に無くなった、シュークリームを……私、が?


 思わず、かあっと顔が熱くなる。


「っは、はあ?! 何言ってんの?!」


 私がそう叫んだとき、


「最近、先輩って俺のこと意識してません?」


 低い声で、そんなことを言う。


 えっ? い、意識って? 私が?


「してるわけないでしょ!!」


 私は慌てて否定した。そんなふうに思われてたのか。

 そう思うと、顔が、すごく熱い。


 私、こう見えて、モテんだからね?!

 なんで静也くんみたいな朴念仁を、私が意識してなきゃいけないのよ!


 でも静也くんが、ゆっくりと立ち上がった。


 あれ?


 気がつくと、私の背中は、屋上の壁にグッと触れていた。これ以上、下がれない。


 私、いつの間に立ち上がったんだろう。

 そして、いつの間にこんな壁まで、後ろに下がっちゃってたんだろう。


「ち、近……」


 静也くんの胸元が、すぐ目の前にある。


 静也くんって、こんなに大きかったっけ?

 普段は座って話してるから気づかなかったけど、完全に私が見上げる形になってる。


 そうか。静也くんって同級生の男子より、ずっと背が高いんだ。


 肩幅も、全然、がっしりしてる。


 静也くん、って、バスケ部だった……。


「……先輩って、本気になったら、どんな顔するんすかね」


 静也くんが、そんなふうに、私のおでこの上で小さく笑った。


 なにこれ。


 心臓が、バクバク鳴ってる。​​​​​​​​​​​​​​​​

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