第7話 DV。痛みは愛。

度々青あざを見たお客さん達が驚き、心配してくれるも、


「あー、これは愛なの。彼からの愛。」


と、意味不明なことを言っていた。


そんな中、たかくんのバースデーが近づいていた。


世は12月の中盤。夜職や立ちんぼの繁忙期である。

私も毎日忙しく、1時間間隔で予約が入り、皆羽振りが良い時期なため毎日10万円近く稼いでいた。


その中から、たかくんのバースデーのために貯めていた。12月後半にはもう40万円近く貯まっていた。


だがその前に大晦日に初詣に行くというイベントがある。

しかし、一緒に歩くのは私ではなかった。

他の、色客と呼ばれる女の子の1人だった。


私が年を越したときはラブホテルで3Pをし、

6万円を手に入れ、合計12万円を稼ぎきったときだった。


ひとりでシャワーを浴び、無心でメイクを直し、また、ミナミへと戻っていく。


いつの間にか履けなかったヒールを履きこなし、メイクを覚え、女になっていった。


しかし、バーへと向かう途中、

私は一体誰のためにメイクを直し、綺麗な状態で今歩いているのか、わからなくなった。


あのとき、スマホの電源を切って他のバーにでも行っていたなら、また違う人生だったのだろうか。


結局私はバーに行った。

ドアを開け、できるだけ悟られぬよう

たかくんの顔は見ない。


色客にバレないようにしろ。

それが今日の私の任務だった。


ひろがたくさんの客を相手にしている中、


「ひろ!ハッピーニューイヤーシャンパン開けて!!」


と、3万円を差し出した。


バーのみんなも大喜びで大騒ぎだった。


任務もあるんだもの。ちょっとは自由にやらせてもらおうとは思っていたので、すっきりした。


「素敵な素敵な!お嬢からぁ!

オリシャンいただきやしたぁ!あざーす!!

せーの!?ハッピーニューイヤー!!!」


ひろのいかついコールが入り、大盛り上がりの楽しい日だった。


それから、ひろと行動し、帰りにタクシーに乗り込む。たかくんは色客とお泊まりだと事前に聞いている。


帰り、ひろが


「ゆき、今日ありがとうな。あのシャンパン、わざとやろ。わかってんで。今日よう頑張ったな。」


そう言ってくれて、なんだか凄く嬉しくて

タクシーの中でグータッチをして笑い合った。タクシー代も奢ってくれて

気ぃつけてなと見送ってくれたひろは今でもいい奴だと思う。


そしてしばらく経ち、バースデーがやってきた。1日目はいっちーが1時間で潰れる事態となり、私がほぼ従業員になりかけたり、

2日目はみんなが二日酔いの中、私がテディを卸し内容物の匂いで全滅しかけたりと

楽しい日々が続いた。


そして3日目。


「ゆき、今日同伴しよか。」


と、たかくんが言った。

そう、この2日間も私は仕事をしていた。

同伴。いわゆるデートである。


たかくんはミナミの美味しいご飯屋さんをいっぱい知っていてどこも美味しかった。


そして久しぶりの休日で0時にバーへ行き、

ひろと合流する。

たかくんがトイレに立った隙にひろが、


「ゆき、そのあざ、大丈夫か」


と、聞いてきた。

今日は肩が見えるオフショルのトップスだったため、見えてしまったのだろう。


「大丈夫。たかくんのだし」


とか話していると、たかくんが戻ってきた。


するとひろが、


「たかくんー笑ゆき大丈夫ですか?あざだらけですけど笑」


と、さりげなく、いやドストレートに切り込んだ。


たかくんは、


「あーそれ?俺の愛情だよ。な?ゆき。」


その顔だ。その優しい顔がどんなことをされても離れたくないと思わせる。


ひろはじゃあ2人の愛に!などとコールを入れ

シャンパンを開ける。3万円の音がした。


そして、3人で乾杯をする。

今日は珍しくたかくんが乾杯の音頭をとった。


「ゆき!3日連続ありがとうー!!

痛みはー??愛ー!!」


この痛みは愛だった。

増えていくあざと傷跡はたかくんの愛。

そう洗脳されていた。


痛みは愛。痛みは愛。そう自分に何度も言い聞かせて。


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