第6話 運命の分かれ目

ある日、私はたかくんにハイボールが飲めるようになりたいと言った。


「ジンジャーハイなら美味しく飲めるんやない?」


と、言われるがままに

ジンジャーハイを飲んでみる。


他のハイボールのような味ではなく、

どこか甘く、飲みやすかった。


飲みやすかったから、テキーラも飲んだから

結果的に私はトイレジャックをした。


かいとやたかくん、ひろに介抱されたことを聞き、翌日来店直後にスライディング土下座で謝り倒し、二日酔いはテキーラで治すものだと言いながら吐きそうになりながらも、

詫びのテキーラを流し込んだ。


そうした酒、煙草まみれの生活を毎日していた頃、私の体に異変があった。


妊娠していたのだ。

5〜6週目だった。

エコー写真を握りながらかいとに説明をする。


「性病はなかった。でも…できてた」


しかし、週数的にかいとではなかった。

多分、そうただ。


妊娠を自覚してからというもの、煙草の匂いが無理になり、ご飯も味噌汁とフルーツくらいしか食べられなくなり、仕事に行くのも困難になった。


そして、できた事実と本当の年齢を3人に教えた。まだ17歳だった。


ひろは、かいとを疑い、殴りかかりそうになったが違うかいとじゃないのと今までのことを説明した。


このバーにもういられないと思った。


だが、ひろとたかくんは、


「17歳?じゃあ俺らが全力で守るから

なんかあったら言え。年齢なんか関係ねえ。

俺らもう友達やんか。」


初めて年齢の壁を超えた瞬間だった。


それからというもの、頑張って仕事をしながら中絶費を貯め、

保険証をたかくんの客が貸してくれたので

親の同意がいらなくなり、年齢も名前も偽って11月26日、私は中絶手術を行った。


無論、犯罪である。

しかし、私にとってこれが最善の策だった。

そこからピルをもらい、仕事も生中が増えたおかげで、稼げる額はどんどん増えていった。


そして、運命の分かれ目は突然やってきた。

ある日、たかくんはいくらで抱いてくれるのかと、ひろと話題になった。


するとたかくんは


「んーまあ会計10万一括ならかな」


とんでもない大金である。

まだ17歳の私は10万円など見たことがなかった。


「なに?ゆき、俺に抱かれたいんか?」


優しくも意地悪な笑みを浮かべるたかくんを見てなんだかきゅん、とした。


正直、もうかいとには愛はなかった。

あのテキーラパーティーでの一件でたかくんを変に意識してしまい、迷っていた。


ここで私は明日から気合いを入れて10万以上稼いだら決めようと決意した。


だが案外すぐにことが決まってしまう。

酔った勢いで初めて5万円の掛けをし、10万円の会計を叩き出した。


掛けはもちろん風営法に引っかかる。

だが私にとってそんなことはどうでもよかった。


どうしても、たかくんに愛されてみたかったのだ。


2人でラブホテルに向かう。

まるで初夜のような感覚だった。

2人ともほろ酔いで部屋に入る。


たかくんはゆっくり私の服を脱がしながら

激しくキスをする。

いつも飲んでいる芋焼酎のクセの強い味とパーラメントの匂いがかすかにする。


そのまま、ベッドに押し倒される。

たかくんは慣れた手つきで私を快楽へと堕としてゆく。


やがて私を寝バックの体勢にさせ、首に腕を回し、強く意識が遠のくほどに締める。


そんなたかくんとの情事は苦しかったけれど

忘れられるものではなかった。


そして私はここで選択を誤ってしまう。


「かいとじゃなくて私、たかくんと付き合いたい。だめかな、?」


ある日、2人で飲んでいた時に

思い切って告白した。

たかくんは驚きながらも少し笑って、


「ええよ。俺も付き合いたいと思っとった」


と、言ってくれた。


まるで、初恋のような感情だった。


たかくんと付き合うにあたり、かいとの家を出ることになった。

ひろは祝福しながらも笑い転げ、協力すると言った。


そして私は、かいとに最後まで連絡を入れずにかいとの家を出ていった。


その日から、たかくんとの生活が始まった。

料理はたかくんが、私は掃除、洗濯を担当することになった。

今思えば、理不尽である。


しばらくは幸せだった。

だが、人は豹変するものだ。

たかくんには暴力癖と噛み癖があった。


稼げなければ、殴られ罵られる。

酔った勢いで青あざになるほど強くあちこちを噛まれる。


私はそんな日々に違和感を感じていなかった。



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