バ美肉おばさんは話を聞く⑫
ゲームを起動して開始だ。
フレデリカを見つけたので近づいた。
人を殺せそうな目線で私を睨んでいる。
いや、大丈夫、キスをするだけだ。
フレデリカが腰の剣に手をかけたのが見えた次の瞬間、次の周回が始まった。
「残念ですね。不用意に近づくと殺されますよ」
実況プレイだから、一回の失敗で諦めるわけにもいかず、何度か繰り返したけど、手が届く範囲に近づくことすらできなかった。
「ちょっと社長さん‼︎キスどころか近づけないじゃない」
「当たり前でしょう。殺したいほど憎い女が訳もわからず近づいてきたら斬るでしょう」
「でも社長さんは普通に近づけましたよね」
「だってアナタ、フレデリカ様を愛してませんよね」
ヒュッと息を呑んだ。
え、ちょっと待って。
フレデリカが怯んだのってもしかして……
「上辺だけ取り繕っても無駄ですよ。憎悪と殺意の塊だからこそ、一片の混じり気のない愛かそうでないかを見極めるんですよ、フレデリカ様は」
そんなに難しいなんて、もったいない。
だって、あのエンディングは自分でも見たい。
でも、社長さんほどの愛をフレデリカに持つのは私には無理だ。
「でも、あの素敵なエンディングを見られるように、もうちょっと難易度を落としても良かったんじゃないですか?」
「痛みもないんですから、十分難易度は下げてますよ」
「もっと、こう……『愛してます』と言うだけでもとか……」
「あぁ?」
社長さんの口からこの対談中に聞いたこともない、低い声が漏れ出た。
特大の地雷を踏んでしまったらしい。
これなら怒鳴られた方がマシだ。
社長さんは私の目を見ながらゆっくりと立ち上がった。
「フレデリカ様の憎しみも」
椅子を横に並べてカメラに向かっての対談だ。
距離は数歩の距離しかない。
社長さん私から目を逸らさずに近づいてきた。
「怒りも、恨みも、孤独も、寂しさも受け入れず理解もせずに」
座っている私を上から見下ろした。
怖いけど、目を逸らせない。
逸らしたらどうなるのかなんて、怖くて試せない。
「だからこそ誰よりも純粋に愛を求めるフレデリカ様に、上っ面だけの愛を捧げるだけで十分だと言いたいのですか?フレデリカ様を冒涜するなら、私はアナタを絶対に許しませんよ」
何、この圧。
社長さんのどこまでも深く澄んだ黒い瞳に飲み込まれそうだ。
本当はフレデリカじゃなくて、社長さんが呪いの本体なんじゃないの。
怖くて震えるを通り越して、股間がじんわりと生温かくなった。
「も、も、もちろんそんなこと言いませんよ」
「ですよね。突然、意味不明なこと言い始めるからビックリしちゃいましたよ」
社長さんは和やかに微笑むとまた席に戻った。
コメントのログを少し戻してみると
「あ、死んだ」
「配信者さんのご冥福をお祈りします」
「南無南無」
など、物騒なものが並んでいた。
もうダメだ。
私の精神力も限界だ。
「ほ、本日は、お忙しいところありがとうございました。そろそろ時間ですので終わりにしましょう」
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