バ美肉おばさんは話を聞く⑩

「えっとそれで……どうやってフレデリカ様を救うんですか?」


「もうその話、しちゃいますか。じゃあ少し、私の語りを聞いて下さい」


ゴクリと唾を飲んだ。


「狂った世界の中で正常だったのは私とフレデリカ様だけでした。それは私にとっては大変な救いだったんです。ナメクジだらけの中に普通の人がいるんですから」


実際にそんな状況になったら、殺人鬼でもフレデリカに縋りたくなるかもしれない。


「50周プレイして気づきましたか?フレデリカ様はプレイヤーを殺す時に必ず目を合わせるんですよ。必ず私を見つめながら憎悪と殺意を口にするんですよ。他のキャラやモブたちが草を刈るように殺されていく中、私だけは必ず目を見て殺してくれるんです」


え……全然気づかなかった。


「はぁ、それって一周回って愛だと思いませんか?」


両手を頬に当てて、うっとりと微笑んだ。


「私を見かけると必ず私を見つめてくるんです。憎悪の炎が見える程の情熱的な瞳で私を見つめてくるんです」


その語り口は恋人のことを語るようだ。

憎悪や殺意のこもった目で見つめられるのを、これほど甘ったるく語るってどういうこと⁉︎


「私が攻略対象とイベントを起こすと必ずフレデリカ様が現れるんですよ。それは1万7860周しようが変わりありませんでした。私の人生で私にこれほどの情熱を向けてくれる人はいませんでした。これはもう愛でしょう‼︎」


絶対に違う。

そんな愛なんて私は知らない。


「それに気づいたのは1万周以上した頃でしたけどね。これほど愛してくれるなら私も愛を返すのが礼儀でしょう。何百、何千回もフレデリカ様が望む愛を捧げることができませんでした。そして1万7861周目、ついに私はフレデリカ様が満足するに足る愛を捧げることができたのです‼︎」


コメント欄が大荒れしてる。

「ヤバいヤバい」

「ヒェ……」

「ヤンデレだ」

視聴者がどんどん伸びてる。


「ここまで言えばわかりますよね。クリア条件はフレデリカ様に愛を捧げること‼︎家族にも学友にも婚約者にも見捨てられ、憎悪と殺意に身を焦がし、世界を改変させる程の呪いを撒き散らす孤独なフレデリカ様に揺るぎない一片の曇りなき愛を‼︎純粋無垢な愛を‼︎」


立ち上がって、息を切らして叫ぶ社長さんにドン引きだ。

マジで社長さんが何よりもホラーだ。めちゃくちゃヤバいヤンデレだ。

漫画やアニメなら良いけど、目の前で見ると死ぬほど怖い。


「皆さん、私のこと頭のおかしいヤベェ女だって思ってるでしょう?」


不気味なくらいコメント欄が静かになった。

私も口を噤んだ。

だって何て返すのが正解かわからない。

間違えてしまったら何するかわからないから、めちゃくちゃ怖い。


「沈黙は肯定と一緒ですよ。嘘でも『そんなことないよ』っていうものでしょう」


自分の顔の前でチッチッチと人差し指を振った。


「でも皆さん大正解でーす。十年前のあの日から私はぶっ壊れてまーす。1万7860回殺されて正気でいられるはずないじゃないですかぁ」


急にキャラ変して高笑いし始めた。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


目の前で突然狂気に取り憑かれた人を見てしまった。お祈りアイコンが沢山流れてきた。私の無事を祈るな‼︎頼むから刺激するようなことをしないでくれ。

すぐ隣にいる私は震えが止まらない。恥ずかしながら少しちびってしまった私を笑える奴がいてたまるか。

しばらくするとピタッと笑いを止めた。


「ごめんなさいね。オタクだからわかるでしょう?久しぶりのオタトークでテンション上がっちゃいまいした」


正気を取り戻した口調になった。

すまん、私はそこまでテンション上げたことないからわからない。

だけど保身のためにうなずいておいた。

「オタ……トーク……?」

「私の知っているオタトークじゃない」

コメント欄も困惑していた。


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