バ美肉おばさんは話を聞く⑨

「じゃあ、少し私の説明付きで実況プレイしてみますか?」


開発者の説明付きで実況なんて、またとない機会だ。

私が気づいてないことを教えてもらえるはずだ。

私がヘッドセットをかぶり50周したデータで51周目のゲームを始めた。

プロローグが終わっても、今回はフレデリカが現れなかった。

王子様との出会いイベントが始まった。

何かおかしいところってある?


「王子の顔を下から覗き込んでください」


言われたように下から覗き込むとすぐに異変に気づいた。

鼻の穴が融合して一つになってる。


「ひっ‼︎」


思わずイベント中なのに逃げ出してしまった。


「なんですかあれ⁉︎」


「この世界は少しずつ壊れていくんですよ。最初は人のテクスチャがおかしくなるんです。間違い探し感覚で楽しんだらいかがですか?」


そんなのどうやって楽しむのよ。

一応実況者としての意地もプライドもあるし、もう少しうろついてみよう。

適当にウロウロしていると社長さんに「ほら、そこのモブの手を見てください」と言われて見てみると、そのモブの指が異常に長くなっていた。

猛烈に怖いのではなく、うっすらと寒気がする。


「何となく視線を感じませんか?」


言われてみれば背中が少しむずむずする感じがある。


「振り向いて下さい」


振り向くとずっと向こう、二十メートルほど離れているところに立っているフレデリカと目が合った。微動だにせずジッと私を睨んでいる。

悲鳴をあげてしまった。

やっぱりホラーゲームじゃない‼︎どうやってフレデリカを救うのよ⁉︎


「フレデリカ様はいつでもどこでもプレイヤーを見つけると、憎悪と殺意のこもった目でみつめるんですよ」


なんで語尾にハートが見えそうなほど、楽しそうに言うのよ‼︎

もう我慢できずに速攻でゲームを終了した。

GYXさんのコメントを読んだせいか、フレデリカが一層怖くなった。

だってあの生々しいほどの憎しみのこもった目は、ただのゲームキャラとは思えなくなった。


「50周でこれくらいの変化だとすると、社長さんの300周だとどうなるんですか?」


「まだ人の形は残ってますから大したことないですよ。あとは空の色がおかしかったり、校舎もちょっと変になってるくらいですね」


「人の形は残ってる⁉︎」


これ、一応イケメンだらけの乙女ゲーだよ。人の形は残ってるって何?よく見なきゃわかんない程度の変化じゃないの?

コメント欄も「⁉︎」ばかりが流れてくる。


「えっと最終的にはどうなるんですか?」


「理論上ですと1000周目くらいでもうほとんど変わらないですよ。でもこっちのネタバレは話さない方がいいですよね」


「教えて」

「1000周もやる人いないから」

「ネタバレOK」


絶対に1000周目までやる人なんていない。断言できる。

だって一周するのに3時間くらいかかるんだよ。さっき社長さんが言ったように三年はかかるんだよ。

コメント欄でもネタバレしてってコメントだらけだ。


「ネタバレしても大丈夫です」


「そうですか……皆さん意外と気概がないんですね……最終的には触手の生えた極彩色のナメクジがあちこちで蠢いているんですよ。それが鉄と石を擦り合わせたような音を出して話しかけてくるんです。でも、その内容が頭では理解できるのがなにより不快なんですよ。内容でそのナメクジが誰かってわかりますし。触手を身体や腕に絡みつけて来るのがまた不気味でねぇ。校舎も内臓と鉱石が混じったような歪んだ世界ですよ。所謂名状し難い悍ましい何かってやつですね」


やっぱりホラーゲームじゃん‼︎神話生物のアレじゃん‼︎乙女ゲー要素も百合ゲー要素も全くないじゃん‼︎

バッドエンド以外あり得ないでしょうよ‼︎

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