バ美肉おばさんは話を聞く⑥

「ゲームを終わらせるために色々やりましたよ。フレデリカ様を倒そうとしたり、自害しようとしたり」


「えっと……倒そうとしたり自害したりって試したこともあるんですか?」


我ながら何をバカなことを聞いているんだと思う。

でも、すぐに思いついた質問はこんなことだった。


「そりゃそうですよ。ゲームを終わらせたかったですし」


社長さんは肩をすくめて笑った。


「ですが竜害イベントの魔法もフレデリカ様にはまったく通用しませんでした。自害しようにもナイフどころか鉛筆の一本も持ってないですし、飛び降りられそうなところには見えない壁がありました。それに比べれば現実はすぐ死にそうになっちゃいますよね」


「あの……何かあったんですか?」


「五年くらい前にナイフで刺されたことがあるんですよ」


「え?」


日常を語るようにあっけらかんと語った。

普通、そういうのってトラウマで話せないとかじゃないの。


「うちの会社、新興ってのもあって若い女の子が多くて。だからか、たまにストーカーっぽい人が会社のそばをうろついていることがあるんです。で、そのストーカーから社員を庇った時にブスッと」


なんで、そんな大変なことを平然と話せるの?


「刃渡り5cmくらいのしょぼいナイフだから平気かと思ったら、思ったよりも血が出て大騒ぎでしたよ。刺さったナイフは抜いちゃダメって本当ですね」


社長さんの許可をもらってから、社長さんの名前で検索したらその事件のことも出てきた。

女社長が刺されて重症くらいしか書いてない小さい記事だ。


社長さんはお腹の所の服を少しめくった。

「ほらここですよ」と指さされたところを見ると、うっすらと傷が残っていた。

ガチじゃん。


「その事件知ってる……」

「なんか凄い不謹慎動画が上がってたよな」

「あの街頭のカメラのヤツだろ」

「見た、平然と腹に刺さったナイフを自分で抜く動画だよな」

「その後刺された本人が電話して救急車を呼んでたよな」

「あれ、特撮じゃなかったの⁉︎」


コメント欄はこの対談が始まってからずっと荒れっぱなしだ。


「いやぁ、あの時は次はどこから始まるんだろうとか考えてましたよ。よく考えれば現実は死んだら終わりですよねぇ」


考えなくても分かる‼︎

「あはは」とか笑って冗談っぽく言ってるけど、嘘は言ってないように見える。

本当だったら死生観が間違いなく壊れてる。

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