バ美肉おばさんは話を聞く⑦

「じゃあ話を戻して」と平然と話を戻そうとするその感性が恐ろしい。


「1万7860回殺されました。どれくらいの数かって言うと、生まれてから毎日殺されたとして、五十年近くになりますね。あの当時、私は二十歳でしたから、文字通り親の顔より見たフレデリカ様ですよ。そして1万7861周目にゲームクリア、すなわちフレデリカ様を救うことができたのです」


「社長さんが救われたのではなく?」


「あの世界は呪いに塗れたフレデリカ様を救う物語の舞台でした。私は本当に愚かでしたから、それに気づいたのは一万周以上した頃でしたけどね」


ヤバい人だ。どんな電波受信してるんだ?

対談を申し込んだことを少し後悔してきた。


「フレデリカが呪われてたって……」

「様をつけろよ、デコ助野郎‼︎」


突然言葉をかぶせて大声を出した社長さんに、ちびりそうになるほどビビった。

椅子から転げ落ちそうになった。

有名な映画のセリフのパロディなのはわかるよ。私が受肉しているアバターは一応デコ出しキャラでもある。

でも社長さんは全く笑っておらず、冗談でも何でもなく本気で言っているのがわかった。

怖いから今後からはちゃんと様をつけよう。


「フ、フレデリカ様が呪われてたってどういうことですか?」


「オカルト系で鉄板な話の一つが呪いの人形ですよね。人間の形をしてるから、きちんと供養しないとってよく言いますよね。ならゲームの中とはいえ、人間そっくりのキャラならどうだと思いますか?」


さっきの怒鳴り声なんてなかったかのような、平静を保った声音で、社長さんは返答した。

よかった、もう怒鳴られないように気をつけよう。


「でも、フレデリカ様が呪われる理由ってありますか?」


「ありますよ。フレデリカ様はやってもいない罪をなすりつけられて、ヘイトを集め、断罪され続けていたんですよ。100万本売れたゲーム、周回プレイする人も多かったでしょう。日本中で何百万回、何千万回もしかしたら何億回も謂れのない罪を着せられ続けたんですよ」


「フレデリカ様は主人公に意地悪をしてたんだから自業自得じゃ……」


「違いますよ。プレイヤーの一人でも実際にフレデリカ様に水をかけられた人はいますか?


「え?」


「階段から突き落とされた人は?」


「そんなのあるわけないじゃないですか」


「そうでしょう。ですが全てフレデリカ様がやったことになってました。でも、フレデリカ様は実際にプレイヤーにそんなことしていない訳ですから、全くの冤罪なんですよ。プレイヤーに都合の良いイベントで、プレイヤーのヘイトを一身に集めて、断罪されるだけの罪なき悪役令嬢なんですよ。その結果、自身が呪いの存在に成り果てたんです。私が閉じ込められたのは本当にたまたまだったと思います」


「た、たまたま?」


「タイミングが違っていたらアナタだったかもしれませんし、今この配信を見ている誰かだったかもしれませんよ」


ヤバいライブ配信がやってると噂になったのか、「ホラーゲーム板から来ました」「オカルト板から来ました」というコメントが増えてきた。

このゲームは乙女ゲーではなくスプラッターホラーゲーと認識されている。呪いの人形の話に加えて、明らかにやばい人の話なんてオカルト好きにはたまらないだろう。

普段絶対に私のライブ配信を見ない層が見にきていた。


「アナタ、まだ50周しかしてないんですよね。それではあの世界を理解できないですよ」


「あの、あれでも結構頑張ったんですけど……」


私はあんなスプラッタホラーゲームを好き好んでプレイするタイプじゃない。

SNSを見ていても、私はむしろプレイしている方だ。


「斬られても潰されても痛くも痒くもないんですから、すっごいヌルゲーじゃないですか。せめて1000周くらいはやって欲しいです」


「1000……」


思わず声が震えた。

いくらなんでも1000周なんて無理だ。


「まぁ、1000周するのには三年は掛かっちゃいますからね。無理を言ってごめんなさい。でも、50周くらいだとまだ世界の変化は小さいですからね。気づきましたか?」


「何か変わってるんですか?」


「数十倍に薄めたと言ったじゃないですか。数百周目で起きてきた世界の変化もちゃんと組み込んでますよ」


変化って何?

いつもいつもフレデリカに惨殺されるだけだ。

その展開に変化はない。

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