バ美肉おばさんは話を聞く⑤

「きらきらプリンスが発売中止になった十年前の事件って知ってます?」


「もちろんです」


「ですよねぇ、ファンなら当然ですよね。あれの被害者、私なんですよ」


「嘘……」


コメント欄も思いもよらぬ社長さんの発言に「⁉︎」ばかりになった。


「証拠になるかはわかりませんが、当時の診断書のコピーを持ってきました」


色々難しいことも書いてあるんだけど、病気の経過のところに『フルダイブVRゲームのきらきらプリンスをプレイしている最中に昏睡状態になったと思われる』と書かれていた。その後にもレントゲンやMRIの所見や症状が書いてあったけど、最後には『原因は不明』で締めくくられていた。

マジなの?


「あんな事件の被害者なのにこのゲームを作ったんですか?普通ならもう見たくもないんじゃ……」


「そういう話を聞きたくて私を呼んだのでは?」


確かにその通りだ。

私が黙り込んでいると、社長さんが話を続けた。


「はい、ではここからは本気で閲覧注意です。さっき警告したので、もう待ちませんよ」


社長さんは微笑みながら、問いかけた。


「皆さん、オカルトって好きですか?ゲーム転生系のラノベって読みますか?」


「オタクですから嗜む程度なら」


いや、まさか、そんなねぇ……この人、まさかゲーム内に転生してたとか言い出すの?


「察してる人もいるでしょうけど、昏睡してる時、私はあのゲームに閉じ込められていたんです。羨ましいって思った人、多そうですよね」


実際「本当だったら裏山」ってコメントが流れまくってる。

私だってそう思う。


「正直にいえば羨ましいです」


「でも残念ながらあんな甘ったるい世界ではありませんでしたけどね。このゲームは私が体験したことを何十倍にも薄めたヌルゲーです。当然ですが証拠は何もありません。ですが誰が夢だ幻だと言おうが、私がフレデリカ様にバラバラに切り刻まれた苦痛は実際に体験したんです。痛みも苦しみもオミットされていなかった世界で1万7860回、殺され続けたのは私にとっては夢でも幻でもなかったんですよ」


「1万……7千?」


突然の展開に頭がついていっていない。

真面目にこの人は何を言っているんだ?

あまりにも突拍子もない話に、私は思考停止してこれ以上の言葉が出なかった。

コメント欄も「は?」「何言ってんの?」ばかり流れている。

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