バ美肉おばさんは話を聞く④
「私もこのライブを観ている人達も一番聞きたい質問です。なんであんなゲームを作ったんですか?」
「うーん、多分根本的に勘違いしてるんだと思いますよ。あれは私が私のために作ったんです。私以外の全ての人がクソゲーと言おうとも関係ありません。あれを作るために起業してお金を作り、ゲームの作り方を勉強し、あのゲームを作るためだけに開発会社を作り人を集めて、完成させたんです。一般販売したのは、もしかしたら私が何故あれを作ったのかを、理解できる人がいるかもしれないと思ったからです」
目に仄かな狂気を感じるのは気のせいだろうか。
「それで大分赤字になったとも聞きますが……」
「企業としては大赤字ですよ。それでも私個人としては赤字なんて思ってません」
「負け惜しみですか?」
「あら、アナタは推しに使ったお金を赤字って言うのかしら?」
「いいえ……」
「ただ単に推しのために億単位のお金をかけただけですよ」
私にだって推しはいる。
だからって、その為に億単位のお金を使えるかといえば絶対に否だ。
「作るのにインディーズ制作よりも法人化して会社にした方がIP獲得や人材確保、機材調達に便利だっただけ。開発会社を立ち上げたのはゲームを作る手段でしかないの。だから必要がなくなったから会社を畳んだ、ただそれだけです。安心して、給料も退職金も十分に支払ったし、次の就職先の斡旋もしましたよ」
あんなクソゲーを作った上に会社を潰したことを責めたかったのに、逆に私の方が気圧されている。
若くして起業して成功している才媛とも呼ばれている人だ。
だからといってこの人にとって億単位のお金は決して少なくないはずだ。
それなのに平然とここまで言い切るあたり、人間としての格の違いがひしひしと伝わってくる。
「でも、そんなことを聞きたいんじゃないですよね。なぜあんなにも元のゲームと違うのか?フレデリカ様を救う意味でしょう?」
「えぇ」
「今回、この対談に応じたのは、発売してもう一年ほど経ちましたので、このゲームの真実を話してもいいかなって思ったからです」
真実とはまた大きくでたな。
言っちゃ悪いけど、そんな大層な真実があるとは思えないんだよね。
「ここからは今まで誰にも、開発スタッフにも話したことのない開発裏話をします。ライブ配信だけどごめんなさいね。もしかしたら閲覧注意ですよ。聞きたくない人は……高評価をして戻るボタンを押して下さい、って言うんでしたっけ?」
「じゃあ、十秒程待ちますよ」と彼女は言う。
私のチャンネルなのに主導権は彼女が握っていた。それだけの凄みがある。
でも閲覧注意の裏話なんて聞かずにはいられない。
彼女は同時接続者数を見ながら、カウントダウンを始めた。
「10、9、8……」
同時接続者数は微増こそすれ、減らなかった。
コメント欄も静かになっていた。
「あら、減ってないんですね。では始めますか」
ゴクリと唾を飲んだ。
一体何を話し始めるんだろう。
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