平凡JDは乙女ゲームをプレイする⑦

タイトルコールとプロローグが始まった。

嘘でしょ‼︎なんで終わってないの⁉︎

フレデリカの魔法で内臓みたいに変わった校舎は元通りになっていた。

入学式で見かけたフレデリカは背筋を伸ばし堂々としていた。

あんなに存在感のなかったフレデリカが誰よりも存在感があった。


何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

まだ、終了コマンドはない。同様に既読スキップもない。

あれを繰り返すの?絶対に嫌だ。

絶対にフレデリカにはかかわらない、そうするには攻略対象とも会わないようにしなくちゃ。

これが難易度が激低い乙女ゲーであることを恨んだ。逃げようとしても逃げられず攻略対象に捕まって、フレデリカに恨まれる。

前回とほとんど同じ展開じゃん。

攻略難度マックスのズッ友エンドを狙いたいのに。

本当にやめて、私に近づかないで。


……また最終日にフレデリカに殺された。

今回はすぐに脳天から真っ二つにされたのは救いだったのかもしれない。

今度こそ終わりだ。

だってもう四時間はとっくに経っているはずだから、いくらなんでも終了だ。




…………これで23周目だ。

22回殺され続けた。

5周目くらいでメニュー画面は完全に機能しなくなっていた。

全てが自動で進むようになり、時間稼ぎすらできなくなった。

辛い、何よりも言葉が通じる人がいないのが辛い。

本物そっくりでも所詮はゲームのキャラ でしかないんだ。

攻略対象に相談したこともあった。その相談すると辛い目に遭っていることをフレデリカの所為にして、そして最終的には私が酷い目にあう。なんなのこの無間地獄は。

相変わらずフレデリカは私を憎んでいる。

攻略対象は相変わらずフレデリカに冤罪を着せる。

いつものように最終日に私はフレデリカに殺された。


88周目

自分が死んだ数なんて、そんなの数えたくはなかった。

60周目くらいで日付の下に数字があるのに気がついた。

なんだろうと思っていたら、それが周回数だと周回を重ねてわかった。

ゲームのコマンドやメニューなんかは壊れてるのに、死んだ回数は丁寧に表示するとか、どんな嫌がらせよ。

なんとかしてこのゲームを終わらせなきゃ。

竜害イベントでいっそのこと、フレデリカを倒しちゃえばいいんじゃないかと思った。

フレデリカが竜に立ち向かう為に私たちに背を向けたところに、イベント魔法を撃ったのに片手であっけなく防がれた。仮にも竜を倒すための魔法だよ。なんなのよあのチートキャラは⁉︎

竜を倒した後に目の前に現れたフレデリカに八つ裂きにされて死んだ。


619周目。

いつも初対面のように接するフレデリカなのだが、周回を重ねるごとに殺意の度合いが高まっているように感じる。

私に向ける視線が尋常じゃない程恐ろしい。

この頃になると何か世界に違和感を覚え始めていた。なんだろう?

王子様にお姫様抱っこされて気がついてしまった。

鼻の穴が一つしかない。

心底気づかなければよかったと思う。

まさかと思い注意深く周囲のキャラを観察してみたら、あるキャラは手の指が六本になっていた。あるキャラは耳がなくなっていた。あるキャラは……と挙げていけばキリがないくらいだ。

キャラクターのテクスチャ自体が壊れ始めている。

ただでさえ話し相手もいないのに、人間の形すら崩れてしまったら、どうすんの?


2899周目。

攻略対象やモブたちは人間をやめてしまった。

腕は触手のように私に絡みついてくる。

顔は虫の目にタコの口がついているような造形になった。

そんなのが私に馴れ馴れしく接してくる。

それなのにイベントは強制されるのが、気が狂いそうなのに、狂えない。

お願いだからせめて心を壊してほしい。


9562周目。

人間の形すらなくなった。

ナメクジが触手を伸ばしてくるのは本当に気味が悪いでは済まない。

人の声でなくなった。不快な音をたてるだけの不快なナメクジたちが蠢いている世界に成り果てた。

なのにその不快な音が何と言ってるのかは頭ではわかってしまう。

校舎もすでに校舎ではなくなっている。

今は目がチカチカするほどの色彩をした水晶の洞窟ようだ。

前回の内臓の中にいるようなのとどっちがマシなのか考える気力もない。


10751周目

諦めと絶望で考えることをずっとやめていたけど、やっとわかった。

ここは私とフレデリカのための世界なんだ。

フレデリカが正気なのかは知らないけど、ずっと人間の形をしているのは私たちだけだ。

きっとフレデリカを攻略するのが鍵になってるんだ。

でも、どうやって?ただひたすらに試す以外の方法はない。

何度でもやり直しができるんだから、悩むよりもやってみよう。


17861周目。

この世界を終わらせるなんて、こんな簡単なことだったんだ。

世界はこんなにも美しい。

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