公爵令嬢は死に戻る⑥
その後、学校入学までの三年間で五体の竜を退治した。
『竜殺しのフレデリカ』の名を知らない者は貴族はおろか平民にもいないだろう。
竜殺しのフレデリカとして竜退治を何度も成し遂げた私は、王国への忠誠と武勇を認められ、『王国の剣』の称号と共に場所を問わず帯剣を許可された。
そのせいで騎士団長の子息の訓練を頼まれたりもした。
そして、色々な婚約の打診がかなりあった。先々代に爵位を買った成金、こちらから話しかけても無視する無礼者、愛らしい容姿で媚を売る以外にできない子どもと碌でもない連中だらけだった。
結局入学一年前に王太子殿下との婚約が決まった。
彼に対して愛なんて欠片もない。向こうもこっちも政略結婚であることは十二分に理解している。
取り立てて彼と何かあるでもなく入学の日を迎えることになった。
入学式を無難に終え、教室へ向かう途中であの女に出会った。
『キャサリン・ゴールデンハート男爵令嬢』
前の人生で私を陥れ殺した女だ。
はっきり言おう、この女、正体不明だ。
ゴールデンハート男爵家自体が公爵家の力をもってしても、正体がわからなかった謎だらけの家だ。
どこに居を構えているのかどころか、家族構成すらわからなかった。
なのに貴族名鑑には家の名前だけは載っている。
存在は記録されているのに、誰も詳細を知らない。そして誰もそのことを疑問にしていないという、貴族社会においては有り得ない意味不明の家だ。
男爵令嬢でありながら侯爵家、公爵家はおろか、王族の男をも手玉に取った恐るべき女だ。
どんな手練手管を使ったのか私には皆目見当もつかない。
本当ならやられる前にやるのが正しいのかもしれない。
でも今の私は王国の剣であり、由緒正しい公爵家令嬢だ。
今は何もしていない女を一方的に斬り殺すことはできない。
それに今回、私は周囲の人間の信頼を勝ち得ているはずだ。
私に冤罪を被せようものなら、逆に後悔させてやれる。
あの女が私を見て「何アレ、おかしくない?フレデリカってあんなんだっけ?」と呟いたのが聞こえた。
男爵令嬢が私の名前を呼び捨てにしたことに猛烈に腹が立った。
「何か仰いましたか?」
私が言うと大きく首を振って、逃げるように廊下の向こうへと走り去った。
私とあの女との初の邂逅はこんな風だった。
その後は以前とほぼ同じだった。
得体の知れない手練手管によって王太子殿下はあの女に染まった。
もはや、やり直しは不可能とまで思うほどだ。
私はあの女にはほぼ関わっていない。何よりも関わる必要はないからだ。
なのに、なぜか私はあの女に嫌がらせをしているらしい。
アリバイがあるにも関わらず殿下が私に文句を言ってくる。
そこにわざとらしく殿下との仲を取り持とうとするあの女の言動に、殺意を隠すことも困難になっていた。
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