公爵令嬢は死に戻る③

1人の武術家を探してもらった。

前の人生で私が王太子殿下の付き添いで観戦した武闘大会で優勝した実力者だ。

一撃たりとも体に触れることも許さなかった強者だ。

今、どこにいるのかは知らない。だけど名前は覚えている。だから父の権力を使って探させた。


捜索には半年ほど要した。

父が彼に武術を教えるように命じると、快く引き受けてくれた。

兄も珍しく「一緒にやりたい」と言い出した。

一応雇い主は父だから、正直に言って邪魔なのだが兄を止めることはできない。

仕方がないから一緒に練習をした。


半年ほどは基礎の練習ばかりだった。

武術家はあからさまに子どもの遊びに付き合っているっていうのがわかる。

それでもここまで体を動かすのは新鮮で楽しかった。身体の動きがどんどん良くなるのが自分でもよくわかった。


「今日から組み手をしましょう」


遂に実践的な練習が始まった。

まずは兄からだった。

適当に相手をして兄が息を切らし始めたところで、適当に褒めて終わりになった。

私の番でも同じように適当に相手をされた。

当然だけど私の拳も蹴りも全く当たらなかった。そして、私も拳を寸止めにされた。


「あなた、なぜ拳を止めるのですか⁉︎」


「え、いやぁ、お嬢様を殴れませんよ」


へらへらと笑いながら言われた。


「私は真剣に武術を習っているのです。止める必要はありません」


「ですが、お嬢様」


「言い訳は聞きません。あなたが私を殴れないと言うのであれば、父に頼んで罰を与えてもらいます」


「そんな‼︎」


「嫌なら、隙があれば私を殴りなさい」


「とても痛いですし、血も出ますよ」


「構いません」


私がジッと睨んでいると、スッと真剣な顔になった。視線が冷たいものに変わった。

未熟なりに殺気というものを感じた。

それでも目を逸らさずに睨み続けた。


「その覚悟がおありですか?」


静かに問いかける声には先ほどまでのヘラヘラした、こちらを軽んじる態度はなくなっていた。

私が頷くと、彼は頭を下げた。


「お嬢様を侮っていて申し訳ありませんでした。それほどの覚悟があるのであれば、女子どもと侮らず真剣にやりましょう」


そして、初めていかにも武術家というような構えをした。

空気がピーンと張り詰めたのがわかった。

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