第33話 戦後のあれこれ⑤
僕がイリスの申し出を断ると、彼女は不満そうに口を尖らせたが、無理だと悟ったのか、今度はツバキとユズリハに視線を移した。
「そこのあなたたち!私の傭兵団に来てほしいの!」
私の傭兵団……?
僕が疑問に思っていると、ザックが教えてくれた。
「イリス嬢は傭兵団の団長をしているんだ」
この華奢な少女が傭兵団の団長?僕は驚きを隠せないでいると、イリスが胸を張って言った。
「そうよ!ただし、私は戦えないから、経営方面だけだけど。実際の戦闘指揮は副団長がやっているわ」
そして、彼女は改めてツバキたちに誘いをかけた。
「こんな男の下より、私のところの方がもっといい条件を出せるよ?」
大きなお世話だ……
僕は心の中でつぶやいた。しかし、ツバキは僕の心境を察したかのように、毅然とした態度でイリスの誘いを断った。
「申し訳ありませんが、私はマスターのもとを離れるつもりはありません」
「私も!マスターについていくよー!」
ユズリハもイリスの提案を断った。
イリスがこちらを睨んでくるが、僕は無視した。
すると、彼女は「はぁー」と大きなため息をついてから言った。
「では、あなたも私の傭兵団に入れてあげるわ」
「は?」
僕は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
エドガーとの取引が成立すれば、大金が手に入る。
何もワガママなお嬢様の相手をする必要はない。
何より、「おまけで入れてあげる」という態度が気に食わなかった。
僕は丁重に頭を下げて、イリスの申し出を断った。
「申し訳ありませんが、そのお誘いはご遠慮させていただきます」
イリスは再び僕を睨みつけた。
「ゴホン」
そのとき、エドガーが咳払いをして、ポーションの話に戻した。
「ロンメル殿。金貨10万枚となると、私の判断では出せない。領主に伺いを立てる必要があるため、少し待ってほしい」
「はい」
「だが、5000枚までなら私の権限で払える。まずは、ポーションを100本だけ売ってくれないか?」
僕は、もちろん問題ないと答えた。
エドガーが職員に金貨の準備をするように指示を出した。
金貨の準備を待っている間に街の被害状況を聞いてみた。
「街の被害はどんな感じでしょうか?」
僕がそう尋ねると、エドガーは頷いて話し始めた。
「破られた東門の近くは倉庫が広がっている地域だ。そのため、街の人的被害はそこまでではない。しかし、城門の外にいた商人たちの多くが亡くなった。さらに、東門が崩れたことで、物資の運搬に支障をきたしている」
僕が引き起こした災いが、多くの人々の命と生活を奪ったのだと、改めて実感した。
そんな会話をしていると、金貨の準備が整った。僕はポーション100本をエドガーに渡し、金貨を受け取った。
この街で何か困ったら直接私に連絡してくれとエドガーは言い、また、領主から返事が帰ってきたら連絡するとも追加して今日の話し合いは終わった。
「本日は、これで失礼させていただきます」
僕はそう言って、その場を後にした。
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