第32話 戦後のあれこれ④
翌日の朝、僕はツバキとユズリハを伴って市庁舎へと向かった。
シズクにはいつも通り、僕たちの影に潜んでついてこさせた。
案内された部屋に入ると、そこにはすでに先客がいた。
領主代行代理のエドガー、そして見慣れた顔のマルコとザック。
さらに、彼らとは別に見たことのない少女が一人いた。
僕が驚いた顔をすると、エドガーがにこやかに挨拶をしてきた。
「おはようございます、ロンメル殿。昨日はありがとうございました」
僕は心の中でゾッとした。
きっと、エドガーは僕との約束の時間を翌日にしたのは、この間に僕たちと関わった人々から情報収集するためだったのだ。
この男は、見た目以上に抜け目がない。要注意人物だと認識した。
マルコとザックも、僕たちに挨拶をしてきた。
「おはようございます、ロンメルさん!」
「あんたの護衛、本当にすごいな!昨日の戦いぶり、最高だったぜ!」
二人の挨拶が終わり、その場にいた少女が立ち上がった。
「私はこの一帯を統治しているマーカディア子爵の娘でイリス・フォン・マーカディアです」
イリスと名乗る少女の言葉に僕は驚いてエドガーの顔を見た。彼は特に表情を変えない。これは事実なのだと理解した。
貴族のご令嬢が、なぜこんなところにいるのだろう……。僕はそう思いながら、昨日の説明と矛盾が出ないように、自分とツバキ、ユズリハを紹介した。
エドガーが席に座るように促すと、僕たちは指定された席に着いた。
僕が席に座った途端、イリスは目を輝かせて言った。
「ポーションを持っていると聞きましたが、本当ですか?」
やはり、マルコたちから事前に話を聞いているな。僕はそう確信して素直に答えた。
「はい。持っています」
僕の言葉にエドガーはすぐに反応した。
「先日の襲撃で多くの重傷者が出ている。もしよければ、そのポーションを譲ってほしい。街がこの状況なので、あまり高い金額は出せない。1本金貨50枚で買い取らせてほしい」
金貨50枚。この金額を聞いて、僕はグレンが相当儲かったんだろうと思った。
この金額が妥当かは正直よくわからないが、そもそもこの襲撃は実質僕が引き起こしたものだし、引け目もあり、提示額をそのまま受け入れた。。
「そのお値段で結構です。それで、何本ほど必要ですか?」
僕がそう尋ねると、エドガーは少し驚いた顔をしてから言った。
「いや、あるだけほしい」
「では、2000本ほどでいかがでしょうか?」
僕の言葉にエドガーは驚いて、椅子から立ち上がった。
マルコとザックも信じられないという顔で僕を見つめている。
「2000本だと……!?ロンメル殿、さすがに金貨10万枚は、すぐには用意できない」
エドガーは困ったような顔で言った。
「それに、失礼だが……本当に持っているのか?」
確かに僕たちは軽装だ。これほどの荷物を持っているようには見えないだろう。
僕は背負っていた鞄に手を入れ、倉庫画面を操作した。そして、まるで鞄から出したかのようにポーションを100本取り出して机に置いた。
それを見たイリスが、興味深そうに僕の鞄を見た。
「あの鞄、そんなに荷物が入らないと思うのですが、どういう仕組みなのですか?」
「これは遺跡から出てきたアイテムでして。見た目よりはるかに多くのものを入れられるんです」
僕はそう説明した。
「なるほど……。その鞄、ぜひ私に売ってくれませんか?」
イリスの言葉に、僕は丁重に頭を下げて断った。
渡したら、一瞬で嘘がバレてしまうからな。
イリスは不満そうな顔をしたが、無視した。
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