第30話 戦後のあれこれ②

​駆け寄ってくる兵士たちを見て、僕はユズリハの爆発の件かと冷や汗をかいたが、目の前に来た彼らの視線は僕やユズリハではなく、ツバキに向けられていた。

​「やはりあなたですね!」

​「あの刀さばきは、まさに神業だった!」

​「モンスターを次々と切り伏せていく姿、本当にすごかった!」

​兵士たちは、口々にツバキを褒め称えた。

​「ああ、そうか……」

​僕は心の中でつぶやいた。アリアがサイクロプスを倒したように、ツバキもかなりの数のモンスターを倒したはずだ。アリアに負けず劣らず、ツバキも注目を浴びていたのだ。

​そこへ、兵士たちに囲われながら歩いてくる人影が見えた。この街の偉い人だろうか。これは長引くかもしれない。

そう考えは僕は城門付近にいる子たちをずっと待たせるのも悪いと思い、ツバキたちの周りにいる兵士たちに聞こえないようにどこかに潜んでついて来ているはずのシズクに声をかけた。

​「シズク、倉庫のお金で適当な宿をとって、休んでと他の子たちに伝えてほしい」

​すると、どこからともなく「了解した」という小さな声が聞こえた。

よかった。ちゃんと聞こえてくれていた。

目の前の兵士たちはツバキに夢中で話しかけており、自分とユズリハは眼中にないようだった。

​そんなやり取りをしていると、兵士に囲まれた人物が僕たちの目の前に現れた。その人物は僕たちを一瞥すると、兵士に何かを耳元で囁かれた。

​その人物は、ツバキの方を向いて言った。

​「私はこの街の領主代行代理を務めているエドガーという者だ。被害状況の視察に来ているところに、貴女に会えて運が良かった」

​そして、彼は昨日のツバキの活躍を絶賛した。

​「貴女の活躍は私も聞いている。ぜひとも、もっと話がしたい。市庁舎に来てくれないだろうか?」

​ツバキは僕に視線を向けた。

​「マスター、どうされますか?」

​ツバキの言葉に、領主代行代理は驚いたように僕を見た。

​「あなたは?」

​僕はマルコとのやり取りを思い出し、そしてつじつまが合うように、慎重に言葉を選んだ。

​「ロンメルと申します。ツバキは私の護衛です」

​僕はそう言って、さらに言葉を続けた。

​「私は商人として一山当てて、趣味をかねて遺跡探検をしていたところ、突然ここ近くに飛ばされてしまいまして……」

​領主代行代理は僕の言葉を遮ることなく、じっと聞いていた。

​「なるほど……」

​彼は顎に手を当てて考え込むと、僕たち全員に言った。

​「ではあなた方全員で、市庁舎に来てほしい」

​この街で生きていくには街の偉い人とは仲良くしておくべきだろう。それに、この街の有力者と繋がりを持つことは、今後の商売にも有利に働くはずだ。

​「承知いたしました」

​僕がそう言うと、領主代行代理は「よかった」と言い、さらに続けた。

「しかし、見ての通りの状況だ。今日は被害状況を把握しなければならんから、明日でよいか?」

​「はい、問題ありません」

​僕はそう答え、明日の午前中に市庁舎で会うことになった。

それが終わると兵士たちを連れてまた視察に戻っていった。

しかし、領主代行のさらに代理か無駄にややこしい肩書きだなぁと考えながら、僕たちはとりあえず、城門の方へ向かっていった。

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