第27話 方針検討①
夜が明け、街は静けさを取り戻しつつあった。
僕たちは宿泊している宿の部屋に集まっていた。
目の前には、ツバキ、ユズリハ、シズク、そしてアリアの姿がある。
遠くにいるミリアとも通話を繋げ、全員の状況を確認した。
「ミリア、そっちは大丈夫か?」
『はい!私たちの方は特に損害はありませんでした!』
ミリアの元気な声に安堵した僕は、彼女たちに街に入るよう伝えた。
「ひとまず、よかった……」
僕は、心からそう思った。
次に戦闘の状況をツバキとアリアに尋ねた。
「敵の数、いつもより多く感じなかったか?」
僕がそう尋ねると、二人は頷いた。
「はい、マスター。今までの戦闘よりも明らかに敵の数が多かったです」
ツバキが真剣な顔で答えた。
「ええ。私も、こんなにたくさんのモンスターが同時に現れるのは初めてです」
アリアも静かにそう言った。
確かにゲームの時はこの数の敵が同時に現れることはなかった。
これもゲームと現実の違いによるものなのだろうか。
ザックが言っていた「人の数によって、襲ってくるモンスターの数が変わる」という設定は元のゲームにはなかった。
さらに、元のゲームでは出撃できるキャラは最大8人までだった。
しかし、今回は戦闘地域の端っこにいたとはいえ、うちの子たちがマップ上に全員揃っている状態だった。
ゲーム時代と同じシステム、そしてゲーム時代にはなかった状況。この世界について、もっと知らなければと改めて思った。
「他になにかあったか?」
僕がそう尋ねると、アリアが少し考えるようにしてから言った。
「はい。サイクロプスを倒して周囲のモンスターを掃討したあと、大男の兵士に声をかけられました。軍に入らないか、と」
「えっ!?」
僕は驚きの声を上げた。
この街を恐怖に陥れたサイクロプスをたった一人で倒したのだ。スカウトがあっても不思議ではない。
しかし同時に、それはアリアがそれほど注目を浴びているということでもあった。僕が「アリアと知り合いだ」と公言すれば、面倒事が増えるのは目に見えている。
どうすれば……
だが、この国の軍にツテを持つというのも捨てがたい誘惑だった。
この世界のことを何も知らない僕たちにはツテは多いに越したことがない。
「アリア、君はどうしたい?」
僕はアリア本人の意思を尊重しようと思った。
「マスターの指示に従います」
アリアの答えに僕は頭を抱えた。一番判断に困るやつだ……。
「うーん……よし!決めた!」
僕は意を決して言った。
「アリア。君にはこのまま軍に入ってもらうことにしよう」
アリアは何も言わずに僕の言葉を待っている。
「ただし、相応に高いポジションに付けてもらうことを条件にする」
真面目でストイックな性格のアリアなら軍に馴染める気がした。
さらに僕はアリアに軍に入るための経歴をでっちあげることにした。
「経歴を聞かれたら、『記憶を失って、最近森の中を彷徨っていた。街道を見つけてそこを辿っていたら、襲われているこの街を見つけて助太刀に入った』と話してくれ」
「はい」
アリアは淡々と頷いた。
「その他、何かを聞かれても、『記憶がない』と言い張ること。いいか?余計なことを話すと、後で突っ込まれたときに苦しくなる。これはマルコやザックとのやり取りでよく分かったからな」
僕の言葉にアリアは静かに頷いた。
「怪しさ満点だが、知らぬ存ぜぬで押し通そう。それでだめなら潔く諦めよう」
僕はアリアの瞳をまっすぐに見つめながら、そう言った。
「承知いたしました。マスター」
アリアから返事をもらった僕は、これで最善の手を打てたはずだと、自分に言い聞かせた。
そしてアリアには一人で先に出てもらい、街をプラプラ歩いてもらうことにした。
衆人環視の中でサイクロプスを倒したアリアだから、何もしなくても向こうが見つけてコンタクトを取ってくるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます