第26話 夜襲⑥
ユズリハはまだ遠くにいるモンスターを弓で狙い始めた。ヒュッと風を切る音とともに放たれた矢は正確にモンスターの頭を射抜く。
ドォン!
矢がモンスターに当たると、周囲を巻き込んで小さな爆発が起こった。ユズリハの専属武器の効果だ。
ツバキとシズクは僕の近くで警戒に当たっている。
ツバキは刀の柄に手をかけて、いつでも抜けるように備えていた。
シズクは僕の影に溶け込むように佇み、周囲を警戒していた。
僕はそんな彼女たちを横目に再びマップ画面を見つめた。
そこにはモンスターアイコンを次々と消滅させながら、サイクロプスに向かっていくアリアの姿があった。
「早く、サイクロプスを倒してくれ……」
僕は心の中でそう願いながら、手に汗を握って画面を見つめていた。
「マスター、敵が結構近づいてきました」
シズクが静かな声で言った。
僕は画面から目を離し、周囲を見た。
たしかにさっきよりも多くのモンスターが僕たちのいる建物に向かってきている。
ユズリハの矢が炸裂するたびにモンスターが倒れるが、全体の数から見ればほんのわずかだ。
「これ以上敵が近づくようなら、私が打って出ます」
ツバキが刀の柄を握りしめながら言った。
そんな緊迫したやり取りをしていると、ユズリハが元気な声で報告してきた。
「マスター!アリアがサイクロプス倒したよ!」
僕はすぐにマップ画面に目を戻した。
すると、さっきまでいたサイクロプスのアイコンが消えている。
同時に、モンスターたちの勢いが心なしか衰えたように感じた。
「よし!アリア、やったな!」
僕は思わずガッツポーズをした。
サイクロプスを倒したあともアリアは近くのモンスターを狩っているらしく、マップ上から次々とモンスターアイコンが消滅していく。
「すごいな、アリアは……」
僕は、その様子を見て感嘆の声を上げた。
「アリアならあの程度は問題ないでしょう」
ツバキは当然といったような顔で言った。
「さすが、アリアだね!」
ユズリハは、満面の笑みで言った。
屋上から僕たちに近づいてくるモンスターの数より、ユズリハが倒している数の方が多くなり、ひとまず目先の危機は去った。
僕は安堵してツバキに声をかけた。
「ツバキ。アリアに加勢して、モンスターを倒しに行ってほしい」
「私はマスターを守る必要があるためここに残ります」
ツバキは僕の言葉を断った。
「ツバキ、大丈夫。マスターは私が守るから」
シズクがツバキにそう言った。
「そうだよ、ツバキ。モンスターを殲滅するにはツバキが一番適任なんだ」
僕もツバキに念を押した。
「しかし……」
ツバキは、しばらく悩んだが、やがて諦めたように言った。
「承知しました。モンスターどもを殲滅してすぐに戻ってまいります」
ツバキはそう言って、屋上の端からモンスターがいる方向へと飛び降りた。
僕は再びマップ画面に目を戻した。
そこにはモンスターを次々と消滅させながら動いているアリアとツバキのアイコンが映っていた。
夜が明ける頃には、マップ上からモンスターはほとんどいなくなっていた。
僕はその様子を見て安心とともに緊張の糸が切れて、その場に大の字で寝転がった。
「なんとか……生き残った……」
僕はこの世界に来て初めての、本格的な戦闘を生き残ったことに安堵のため息をついた。
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