第24話 夜襲④

​ゲーム時代のサイクロプスは中盤マップのボスキャラ的存在だった。

その巨体に相応しい高いHPと、高い攻撃力の前にまだレベルが低かった頃の僕たちを何度も窮地に陥った。

戦う度に何人かが戦闘不能にされていた。

まぁ、高難易度マップではノーマル敵キャラとして普通に出てくるんだけどね。

だから、レベル100となった今のうちの主力メンバーの敵ではない。

​……とは言っても、それは主力メンバーに限っての話だ。

探索用のメンバーはレベル30台までしか育てていない。

正面からぶつかれば戦闘不能になる子が出てくるかもしれない。

そしてゲーム時代と同じように復活できる保証もない。


​「ミリア!そっちのサイクロプスは、どの方向に向かっている?」

​僕は焦って尋ねた。

​『えっと、城門の方に向かっています!私たちの方じゃないです!』

​ミリアの答えに、僕はひとまず胸を撫で下ろした。

彼女たちがいる高台は城門とは逆方向だ。サイクロプスが向かってくる心配はない。

​「マスター、大丈夫?」

​僕がテンパっているのを見て、ユズリハが心配そうに尋ねてきた。

​「ユズリハ、サイクロプスが見えるか?」

​「サイクロプス?……うーん、見えないよ」

​ユズリハの言葉に僕は焦った。

この窓から見える方向ではないのか?

​そのとき、隣にいたツバキが、落ち着いた声で言った。

​「マスター、なぜマップを開いてみないのですか?」

​「あ……」

​僕はハッとした。

あまりの出来事にテンパっていて、マップの存在をすっかり忘れていた。

​僕はすぐにメニュー画面からマップを開いた。

​すると、僕たちの窓から見える方向とは逆方向に、サイクロプスのアイコンが確認できた。そして、そのアイコンは一つだけだ。

​「よかった……」

​僕は安堵のため息をついた。

ひとまず、うちの子たちの脅威となる敵は近くにいない。


​僕は落ち着きを取り戻し、改めてマップ全体を確認した。

城壁付近にはたくさんの人アイコンとモンスターアイコンが入り乱れている。

ゲーム時代と比べると表示されるアイコンの数がかなり多く、詳しい戦況は見づらい。だが、全体の動きは把握できる。

​ザックたちですらオーガに苦戦していたことを思い出すと、この世界の兵士たちが、サイクロプスを含むこのモンスターたちに対処できるかどうか、不安を感じてきた。

「ミリア、聞いてくれ」

​僕は再びミリアに連絡を取った。

​『はい!』

​『アリアに、サイクロプスを倒してもらってほしい』

​『え?アリアさんがですか?』

​ミリアが驚いたような声を上げた。

​『そうだ。アリアのスキルなら一撃で仕留められるはずだ。他の子たちはそのまま待機していてほしい』

​僕がそう言うと、通話の向こうから凛とした声が聞こえてきた。

​『承知いたしました、マスター。すぐに仕留めてまいります』

​それは、アリアの声だった。

​「アリア、頼む」

​僕はそう言って、通話を切った。

アリアのスペシャルスキルである「致命の一撃」はその名の通り、単体の敵に対して大きなダメージを与える。

レベル差を考えれば、サイクロプスなら一撃で十分だろう。

​僕はマップ画面に映るアリアのアイコンが、サイクロプスのアイコンに向かっていくのを見つめた。

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