第23話 夜襲③

​窓から身を乗り出し、僕は真剣な顔で城壁の方を眺めていた。しかし残念ながら、僕にスキルはない。遠くの城壁で何が起きているのか、肉眼では何も見えていなかった。だが、最初から頼り切るような態度だと彼女たちに失望されそうだ。ここはひとつ、格好つけておこう。

​「ふむ……」

​僕は意味ありげに頷きながら外を眺めた。


​街の方も見てみると、先ほどまで賑わっていた通りに、人っ子一人いない。完璧に静まり返っており、その様子は不気味ですらあった。

​「マスター、誰もいないね」

​隣にいたシズクが言った。

​「ああ。みんな家の中に避難したんだろう」

そんなやり取りをしているとユズリハが言った。

​「なんで誰もスキルを使わないんだろう」

​ユズリハの言葉に、僕はハッとした。

​「城壁にいる兵士たちは、誰もスキルを使ってないのか?」

​僕が尋ねると、ユズリハは「うん」と頷いた。

確かに通常発動するパッシブスキルは遠くを見れるユズリハの「水鏡の目」や通常攻撃が常にクリティカルになるツバキの「心眼」のように見た目ではわからないものが多い。

だが、スペシャルスキルともなれば話は別だ。

敵を追跡するユズリハの「追跡の矢」のように、普通とは違う動きをするものも多く、その分、パッと見でわかるものも多くなる。

​これだけの兵士たちがいるのに、誰もスペシャルスキルを使っていないというのは、違和感があった。

​もしかして、この世界の人たちには、スキルが無いのではないか……?

​そんなことを考えていると、ユズリハが言った。

​「ねぇ、マスター……劣勢だよ、これ」

​「え?どういうことだ?」

​ユズリハの言葉に、僕は思わず聞き返した。

​「あのね、兵士さんが城壁に登ってきたワーウルフたちに、どんどん押されてるの」

​ユズリハの言葉に僕は不安になった。

受付の人がこの城壁は破られたことないと言ってたし、きっと大丈夫なはず。

これがいつもの戦闘の一幕なのか、それとも今回が特別なのか、戦闘の素人である僕にはわからない。


​「はぁ……どうしよう」

​僕は頭を抱えながら、遠くにいるミリアたちに連絡を取ってみることにした。

​「ミリア!今どこにいる?」

​『マスター!私たちは城壁から離れた高台に避難できています!』

​ミリアの元気な声に僕は安堵した。

​「城壁の外から戦闘はどう見える?」

​僕はそう尋ねた。

​『えっとね、ワーウルフたちが城壁を登ってて、城壁を登れないオーガたちが、城門の前で野宿しようとしていた人たちを襲ってます!』

​ミリアの言葉に、僕は絶句した。

​そうか……城門の外に、野宿している人たちがいたんだった……

外の人たちは、相当被害が出ているに違いない……


​この襲撃の元凶は僕だ。

僕がマップを「スタート」してしまったせいで、多くの人が危険な目に遭っている。

もしこのことがバレたら、僕はどうなってしまうのだろうか……。

僕は自分がこの襲撃の元凶だということは絶対に誰にもバレてはいけないと心に誓った。

​そんなことを考えていると、通話の向こうからミリアの悲鳴のような声が聞こえてきた。

​『マスター!サイクロプスがいます!』

​ミリアの声に、僕の思考は一気に現実へと引き戻された。

​「サイクロプス……だと?」

​僕は、窓の外を再び覗き込んだ。

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