第22話 夜襲②
「カーン、カーン、カーン」
金属を叩くような規則的な音は、徐々に増えていった。
窓から外を覗き込むと、街の様子がいつもと違うことに気づいた。
日も暮れて賑わっていた通りに、どこか緊迫した空気が流れている。
人々は早足になり、家路を急いでいるようだった。
さらに、甲冑を着て武器を持った人たちの姿が、先ほどよりも明らかに増えている。廊下からも、多くの足音とざわめきが聞こえてきた。
「どうしましたー、マスター?」
ユズリハが、心配そうな顔で僕に尋ねてきた。
「なんだか、街が騒がしくなっているみたいだ。様子を見てこよう」
ただ事ではないと判断し、僕たちは情報収集のため宿の受付に向かった。
ロビーには僕たちと同じように情報を求めて集まってきた宿泊客たちが大勢いた。
受付の女性は冷静な口調でアナウンスを続けている。
「ただいま、この街にモンスターが襲来して来ています。ですが、ご心配はございません。この街は強固な城壁で囲まれており、経験豊富な守備隊の皆さんと、この街に駐屯している第6軍団の精鋭たちがおりますので、ご安心ください」
さらに、彼女は付け加えるように言った。
「この街の城壁は一度たりとも破られたことはございません」
受付の女性の力強い言葉に、宿泊客たちの表情から、少しずつ不安が消えていく。
僕は周囲を観察した。
慌てていたのは、ほとんどが僕と同じ宿泊客のようだった。
そしてこの街の住人でもある宿の従業員たちは最初から落ち着いている。
「定期的にモンスターの襲撃があるから、みんな慣れているのか……」
僕がつぶやいていると、ツバキが鋭い声で尋ねてきた。
「マスター、どうされますか?私たちも戦場へ向かうべきでしょうか」
僕はツバキの言葉に首を横に振った。
「いや、大丈夫だ。宿の人たちも落ち着いているし、モンスターの対応は守備隊に任せれば問題なさそうだから、僕たちは部屋に戻ろう」
ツバキは何も言わず、ただ僕の指示に従った。僕たちは部屋に戻り、扉を閉めた。
「ミリア、聞こえるか?」
僕はすぐにミリアに連絡を取った。
『マスター!連絡が遅いですよ!』
ミリアの不満そうな声が聞こえてきた。その声の背景には、剣戟とモンスターの咆哮がかすかに聞こえる。
『今、そっちの様子はどうだ?』
『言いつけ通り、城壁からある程度離れた場所にいます。時々、モンスターがちらほら現れますけど、アリアさんたちが倒しているので、私たちは問題ありません!』
ミリアの元気な声に安堵した。
『それに、あの、マスター……モンスターが、何もないところから急に現れたように見えたんです。何がなんだかわかりません』
ミリアの不安そうな声が、僕の胸を締め付けた。
僕には思い当たるフシがあった。
先ほど、僕は【マーカディア市域】のスタートボタンを押した。あれは単なる転移ではなく、本当にゲームを「開始」したのだろう。
「ミリア……そのモンスターの襲来、たぶん、僕が元凶だ」
『えっ?どういうことですか?』
『いや、この世界に来てから、ゲームのシステムが現実になっているみたいで……僕がさっき、この街のマップで「スタート」を押したら、ゲームが始まってしまったみたいなんだ』
『マスターが元凶ですか……!』
ミリアの恨めしそうな声が、通話越しに聞こえてくる。
「ごめん!本当にごめん!」
僕は何度も謝った。
『いいですけど……。もし、私たちに何かあったら、マスターを恨みますからね!』
ミリアはそう言って、少しだけ笑ったような気がした。
「わかった。絶対、君たちに何かあったら、僕が責任を取る。だから、今はモンスターに襲われないようにもう少し離れておいてほしい」
『了解です!』
ミリアの元気な返事を聞き、僕は通話を切った。
「まずは、守備隊たちのお手並み拝見だな……」
僕はそう言って、ユズリハに視線を向けた。
「ユズリハ、水鏡の目を使って外の様子を見て、報告してくれ」
「はい!任せてください!」
ユズリハは元気な声で返事をし、窓の前に立った。
僕は慌ただしくなった街の、その先の城壁をじっと見つめていた。
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