第21話 夜襲①

路地裏に入り、改めてメニュー画面を確認しようとすると、背後からスッと気配がした。

​「マスター、戻りました」

​いつの間にか、シズクがそこに立っていた。

​「うわっ!心臓に悪いから、いつもいきなり現れないでくれ」

​僕は思わずそう言ってしまった。

​「ふふふ、忍者ですから」

​シズクは不気味な笑みを浮かべてそう返事した。


​一旦その話は置いておき、画面に表示されているミリアをタップした。

​『マスター!今、城門のすぐ近くに来ましたけど、門が閉まってます!』

​ミリアの声が聞こえてきた。

どうやら城門は1日中開いているわけではなさそうだ。

門前で待っている人たちに話を聞くと、明日の朝までは開かないらしい。

​「どうしますか、マスター?」

​隣にいるツバキが落ち着いた声で尋ねてきた。

ツバキたちには画面は見えないが、音声は聞こえるようだ。

​「うーん」

​僕が悩んでいると、シズクが提案してきた。

​「私が城門に忍び込んで、開けてきますか?」

​そういえば、ミリアたちを先導していたシズクは、どうやって街の中に入ってこれたのだろう?

​「なんで、お前は入ってこれたんだ?」

​「忍者ですから」

​またその答えだ。僕は思わずため息をついた。

​この街を今後の拠点にするつもりだ。初日から騒ぎを起こして、揉め事になるのはまずい。シズクの案は却下することにした。

​「ミリア、申し訳ないが少し離れたところで一晩しのいでほしい。」

​僕がそう伝えると、ミリアから『了解しました!』と元気な返事が返ってきた。


​『そういえば、倉庫に入っている串焼きやパンを食べてもいいですか?』

ん!?

​ミリアの言葉に僕は驚いてメニュー画面の倉庫を開いた。

そこには、確かに屋台で買って入れた大量の串焼きの項目があった。

​「そうか、ミリアと倉庫を共有している事になっているから、こっちが入れたアイテムを引き出せるのか……」

​離れた場所にいても、一瞬で物を輸送できる。

これは今後使える強力な手段になるかもしれない。

​「もちろん、食べていいぞ。お腹いっぱい食べてくれ」

​ミリアにそう返事をすると、ミリアから『やったー!』と元気な返事が返ってきた


​倉庫画面に目を移すと、以前消費して減ったはずのパンが増えていることに気づいた。

僕の頭の中に疑問が浮かんだ。

もしかして、ゲーム時代は倉庫アイテムではなかったパンだが、倉庫アイテムになった今でも時間経過で回復するのかもしれない。

これはこれで食費問題が多少解決したかもしれないと思った。


​僕は他にも変わった所がないかと、メニュー画面を開いた。

​マップ画面をタップすると、マップ選択の項目が増えていることに気づいた。

​【マーカディア市域】

​という、新しいマップが増えている。

​ゲーム時代では、ここでマップを選んでスタートを押すとゲームが開始された。

ここではどうなるのだろう。

​僕は興味本位で、そのマップをタップしてみた。

​【マーカディア市域】

​▶スタート

​そのボタンをタップした瞬間、目の前の景色が急に歪み、次の瞬間には、全く違う場所にいた。

​「え……?」

​僕は自分が立っている場所を見て、目を見開いた。

​ここは、さっきまで歩いていた路地裏ではない。豪華な調度品が並んだ、見覚えのある部屋だ。

​「ここ、僕たちの部屋だ……」

​僕は宿泊していた夜明け亭の部屋にいることに気づいた。

​「な、何が起きたんだ?」

​僕が混乱していると、ツバキが鋭い声で言った。

​「マスター、何か来ます」

​「え?」

​僕は周囲を見渡したが、特に何も変わった様子はない。部屋には、僕とツバキ、ユズリハ、そしてシズクの四人だけだ。

​……気のせいじゃないか?

​僕はそう思って、窓を開けた。

すると、遠くから何かが聞こえてくる。

​「カーン、カーン、カーン」

​それは、金属を叩くような、規則的な音だった。

​「何だろう……」

​僕は、その音の正体を探るため、窓の外を覗き込んだ。

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