第19話 酒場にて①
ザックに連れられて、僕たちは酒場へと向かった。賑やかな街の喧騒から少し離れた路地裏に、その店はひっそりと佇んでいた。
「ここが俺たちのいきつけの店だ。美味いし、安いぞ!」
ザックがそう言って、木の扉を開けた。中からは香ばしい肉の匂いと男たちの豪快な笑い声が聞こえてくる。
「やったー!ご飯だ!」
ユズリハが店に入るなり目を輝かせた。
店内は大衆居酒屋のような雰囲気だった。
テーブルが並び、酒を酌み交わす傭兵や労働者と思われる人たちが所狭しとひしめき合っていた。
僕たちは空いている席に座った。
ザックは僕の隣に座り、ビールジョッキのような大きなグラスを僕に差し出した。
「改めて、本当にありがとうな、ロンメルさん。あんたがいなかったら、俺たちは今頃生きていなかったかもしれない」
ザックはそう言って、グラスを僕に差し出した。
「いえ、大したことありませんよ。当然のことをしただけです」
僕はそう言って、グラスを受け取った。
「そうは言っても、感謝してもしきれないくらいだ。あの時は本当にどうしようかと思った。普通じゃないことが起きたんだ」
ザックはそう言って、暗い顔をした。
「このあたりは、よくオーガが出るんですか?」
僕がそう尋ねると、ザックは首を横に振った。
「いや、街道で出ることはあるが、出たとしても一体か二体だ。複数体、それも全部オーガが出るなんて、今までなかった。だから今回は被害が大きかった。」
ザックはそう言って、再びグラスを煽った。
「なるほど。この街はモンスターの襲来に備えて強固な城壁で守られているからてっきり、いつもそれなりの数のモンスターが襲ってくるものだと思ったのですが、思ったより出る数は少ないんですね」
僕がそう言うと、ザックは「街道はな」と補足してくれた。
「モンスターは人間の数で出てくる数も変わるんだ。街のような大勢の人間がいる場所だと、ある程度まとまった数のモンスターが襲ってくるが、このあたりの街道の移動人口だと、そんなに多くのモンスターを引き寄せることはないはずだ」
僕はザックの話にそんな仕組みになっているのかと思った。そして今度は、彼の傭兵団の被害について尋ねた。
「ザックさんたちの傭兵団は、どれくらいの被害が……?」
僕がそう尋ねると、ザックは悲しそうな顔で言った。
「もともと三十人くらいいたメンバーのうち、十人以上が死んだ。残った奴らの半数近くが重傷でしばらくは傭兵稼業ができそうにない」
ザックはそう言って、グラスを握りしめた。
「亡くなったメンバーの中に、団長もいてな。副団長だった俺が、繰り上げで団長になった」
ザックの言葉に僕は胸が痛んだ。
僕が躊躇せずに回復ポーション放出すれば、重傷者はすぐに回復できたはずだ。
HPが30%回復する回復ポーション(中)で瀕死だった人の傷がたちまち小さくなり、意識を取り戻したのだ。HPが50%回復する回復ポーション(大)なら、自力で歩けるまで回復したかもしれない。
ゲーム内では倒されたキャラを復活させられた復活ポーションを使えばもしかして亡くなった人を蘇生できたのではないかとさえ思えてしまう。
「それは……お悔やみ申し上げます」
僕がそう言うと、ザックは力なく笑った。
「いやいや、こういう生業をしていると、よくあることだ。だが、メンバーがかなり減ったことで、マルコのところのような大きな商会の護衛任務を請け負うことは、もうできなくなりそうだ」
ザックはそう言って、肩を落とし気味に言った。
「今後は心機一転、傭兵ギルドで小さい仕事からこなしていく予定だ」
暗くなった場の雰囲気を変えようと話題を変えた。
「ザックさん、マルコさんたちのことを、少し聞かせてもらってもいいですか?」
僕がそう尋ねると、ザックは少し驚いた顔をしたが、すぐに答えてくれた。
「ああ、いいぜ。マルコは大商会の三男坊で、その商会のマーカディア支店を任されているんだ。見た目通り、穏やかな性格だが、商売の腕は確かだぞ」
「そうなんですね……」
僕はマルコの意外な正体を知り、驚いた。
すると、ザックは僕の顔を覗き込むようにして言った。
「そういえば、さっきの戦いで、ユズリハさんの矢がオーガに刺さった後、爆発したようだが、火薬を矢につけているのか?」
あれはユズリハの専属武器による効果ですとは言えず……
僕は言葉を濁した。
「ま、まぁ、そんな感じです」
「へぇ……すごいな。そんな技術があるとは、知らなかったぜ」
ザックは感心したように言った。
このままでは深く突っ込まれてしまう。僕はまた話題を変えることにした。
「あの、ザックさん。実は、僕もこの街で商売を始めようと考えているんですが、どうすればいいのか相談に乗ってもらえませんか?」
「商売か!いいじゃないか!」
ザックはそう言って、楽しそうに笑った。
「この街で商売をやるためにはこの街の商人ギルドに加盟する必要がある。もしマルコさんのところのような大商会から推薦状があれば、問題なく加盟できるはずだ」
ザックはそう言って、僕にビールジョッキを差し出した。
あの腹黒商人を頼らなければならないかもしれないと思うと少し気が重くなった。
ふと、ツバキたちはどうしてるかと見ると、二人とも傭兵たちに話しかけられていた。
ユズリハは、うん!うん!と相づちを打ちながらご飯に夢中だった。
あれは絶対話聞いてないなと思った。
ツバキも適当にあしらってる様だった。
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