第18話 要塞都市⑤

落ち込んでいても仕方ない。

そう考えてユズリハと合流するべく、隣の部屋をノックした。

「はーい」

そう言ってユズリハはドアを開けて、「入って!入って!」と僕たちを招き入れた。

こいつは悩みごととか無さそうで羨ましいなぁ。

​「マスター、どうしたんですか?落ち込んでるの?」

​そんなことを考えてると、ユズリハが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。

一応は人の気持ちは察せられるのかとちょっと感心した。

​「いや、なんでもないよ……」

​僕はそう言って、誤魔化した。

​「もしかして、宿泊費がすごく高かったんですか?」

​ユズリハは僕の顔色を見て、そう尋ねてきた。

​「一人1泊、金貨1枚だからね」

そうなんだーと呑気そうに答えるユズリハを見て、これは貨幣価値が分かってないだろうなと思った。

「さっき食べた串焼きは美味しかった?」

「うん!おいしかった!」

「毎日食べたい?」

「食べたい!」

そう答えるユズリハに現実を突きつける。

「じゃあ、少なくとも6日は食べられないね。それだけのお金が一瞬で消えたからね」

「ええっ!?ここってそんなに高いの!?」

​ユズリハが驚きの声を上げた。

食べ物換算の方がユズリハにはピンと来るようだ。

​「しかも、両替に一割の手数料を取られたんだよ。金貨二枚の両替で、銀貨二十枚も手数料で持っていかれた。串焼き100本分だよ」

​「ひどいですね!ぼったくりですよ!」

​ユズリハは怒ったように頬を膨らませた。 

やっと分かってくれたようだ。


他の子たち用にもっと安い宿を探さないと……

そう考えているとお腹が空いてきた。

この宿で夕飯を食べるといくら取られるか分かったものじゃないから、ご飯は外で食べようと考えて二人に言った。

​「まずは腹ごしらえでもしようか」

​僕はそう言って、ユズリハとツバキに笑いかけた。

​「やったー!ご飯だー!」

​ユズリハが、元気な声で喜んだ。

​「さっき串焼きをたくさん食べたばかりなのに、まだ食べるんですか?」

​ツバキが、呆れたようにユズリハに言った。

​「えー、だって、食べた分だけお腹が空くんだもん!」

​ユズリハはそう言って、ツバキに反論した。

​「はぁ……」

​ツバキがため息をついた。

​「この分だと、食費が大変なことになりそうだな……」

​僕は、今後のことを考えると、気が重くなった。


​どうしようかとあてもなく街を歩いていると、前から歩いてくる人影があった。

​「あれは……」

​僕はその人影を見て、思わず足を止めた。

​「ザックさん!?」

​そこにいたのは、傭兵団のリーダー、ザックだった。彼は、僕たちに気づくと、笑顔で手を振ってくれた。

​「ロンメルさん!こんなところで会うとは!」

​ザックはそう言って、僕たちに駆け寄ってきた。

マルコから紹介された宿に着いて、これから夕飯を食べようかと考えているところだと話した。

​「俺たちはこれから酒場で飯を食うところだ。もしよかったら、一緒にどうだ?」

​僕の頭の中で計算が始まった。傭兵のザックたちの方なら庶民的な情報を得られる可能性が高い。何より、商人のマルコよりは表裏のない情報が貰えるはずだ。

​「はい!ぜひ、ご一緒させてください!」

​僕はそう言って、ザックに頭を下げた。

​「よし!決まりだ!」

​ザックはそう言って、僕の肩を叩いた。

そして僕たちはザックたちと共に、夜の街を歩き始めた。

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