第17話 要塞都市④
「夜明け亭」と書かれた看板を見上げ、僕は一歩を踏み出した。
門前にいる守衛と思われる人が会釈し、重厚な扉が開かれると、奥からは中からは温かい光と人々の賑やかな声が漏れ聞こえてきた。
「立派な宿だな……」
僕は思わずそうつぶやいた。
入り口から見えるロビーは広々としており、豪華な絨毯が敷かれ、壁には美しい絵画が飾られている。
受付にいたのは、優しそうな顔をした女性だった。
「いらっしゃいませ、お客様。何か御用でしょうか?」
「ストカル商会のマルコさんからのご紹介で、こちらに宿泊させていただきたいのですが……」
僕がそう言うと、受付の女性はにこやかに頷いた。
「マルコ様からお話は伺っております。ようこそ、夜明け亭へ。お一人様一泊金貨1枚となりますが、何泊ご宿泊されますでしょうか?」
……え?
僕は耳を疑った。マルコは銀貨5枚程度あれば一泊できますと言っていたはずだ。
「一人、一泊で金貨一枚……?」
僕が確認するように尋ねると、彼女は「はい」と頷いた。
しかし、よく思い返すと「高いところを望まなければ」という前置きがあった。
「当亭では、お客様に最高の安らぎを提供するため、セキュリティや食事にも最高の配慮をいたしており、その分料金も高めになっております」
「は、はは……」
僕は乾いた笑いしか出なかった。
一泊十万円……
前世でも泊まったことの無いレベルだ。
それが三人で二泊となると……金貨六枚。
マルコにはめられた気分になりながらも、紹介してもらった手前、今さら「やっぱりやめます」とは言えない。
「はい、分かりました。。えーと、三名で、とりあえず二泊お願いします」
僕がそう言うと、彼女は笑顔で「承知しました。少々お待ちください」と言い、何かの書類を書き始めた。
僕はグレンからもらった金貨を鞄から取り出し、金貨6枚をカウンターに置いた。
手続きが終わったのか、彼女は「お預かりします」と言って金貨を受け取り、代わりに部屋の鍵を3本くれた。
部屋は3階のだそうだが、いきなりの散財イベントに動揺してあまり話が頭に入ってこなかった。
「マスター、どうしたんですか?」
ユズリハの声でハッと我に帰った。
心配をかけても仕方ないと考え、二人には先に部屋に行ってもらうことにした。
「私はマスターの側に残ります」
鍵を受け取って、わーいと喜びながら部屋に向かっていったユズリハと違いツバキはそう言って、僕の隣に残った。
屋台での事もあり、細かいお金に両替できないかと受付のお姉さんに聞いた。
「かしこまりました。両替には手数料として一割いただいておりますが、よろしいでしょうか?」
「い、一割!?」
僕は驚きの声を上げた。十万円の両替に一万円の手数料。ぼったくりにもほどがある。
だが、細かいお金がないと、また屋台の時のように困ってしまう。
悩んだあげく、とりあえず金貨2枚分を両替をし、金貨二枚と引き換えに、銀貨百八十枚を受け取った。
再びの散財イベントに落ち込みながら、部屋に行ってみるとお値段に相応しい豪華な部屋となっていた。
リビングに個室が2つもついており、3人で一つの部屋でもよかったんじゃないかと思ってきた。
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