第16話 要塞都市③

ミリアたちへの連絡が終わり、一息ついていると、

​「マスター、お腹空きました!」

​ユズリハが元気な声で言った。いつの間にか、ツバキと共に僕の隣に並んで歩いている。

​「ユズリハ、マスターのそばでは静かにしなさい」

​ツバキが、ユズリハをたしなめる。

​「えー、だって、お腹空いたんだもん!」

​ユズリハは不満そうに頬を膨らませた。

​「ふふ、大丈夫だよ、ツバキ。僕も何か食べたかったんだ」

​僕はそう言って、ユズリハとツバキに笑いかけた。

​「街は活気があって、いい雰囲気だな」

​「そうですね。ですが、道行く人々に武器を装備している人が多くいるようです」

​ツバキは、周囲を注意深く観察していた。

​「うん。この街が、交易都市でありながらモンスターの襲撃にも備えて強固な守りを持つことの証拠だろうな」

​僕たちがそんな会話をしていると、街の中央広場にたどり着いた。

そこには多くの屋台が出ており、賑やかな声が響き渡っていた。

日も沈みかけているのに屋台が閉まる気配は全くない。

​「ねえねえ、マスター!あの屋台、美味しそう!」

​ユズリハが、香ばしい匂いを漂わせている串焼きの屋台を指差した。

​「ああ、美味しそうだね。何か買ってみようか」

​僕はそう言って、串焼きの屋台に近づいた。

​「いらっしゃい!兄ちゃん、何にする?」

​屋台のおじさんが、笑顔で僕たちに話しかけてきた。

​「串焼きを……三本ください」

​僕はそう言って、グレンから受け取った金貨から一枚取り出した。

​「お兄さん、それは……」

​屋台のおじさんは、僕の差し出した金貨を見て、目を丸くした。

​「え、あ……すみません。小銭がなくて、これしか持っていなくて……」

​僕は慌ててそう言った。マルコから貨幣価値は聞いていたが、実際の取引で金貨を使うのは初めてだ。金貨1枚は、銀貨100枚、銅貨1万枚。串焼きが銅貨数十枚だとしても、あまりに大きすぎる。

​「こりゃあ、すごい。金貨なんて、めったに見ねえな!」

​おじさんは金貨をまじまじと眺め、感嘆の声を上げた。

金貨1枚で10万円相当の価値があるから、普通の生活していて、お店で10万円札が飛び交っている様子は確かに想像できない。

​「お兄さん、三本なら銅貨60枚だ。金貨一枚じゃお釣りがねぇ。だが、せっかく来てくれたんだ。この金貨一枚で買えるだけ、全部持っていきな!」

​「え、そんなに!?」

​僕は驚いた。10万円相当の金貨一枚で、串焼きがどれだけ買えるのだろう。

​「いいから、いいから!この街じゃ、こんな大盤振る舞いをする奴はめったにいねえ。きっと、商売繁盛の縁起物だ!」

おじさんはそう言って、おじさんは次々と串を焼き始めた。

これはうまく言いくるめて大量に売りつける魂胆ではないかと思ったが、細かいお金もないし、後で合流した他の子に配ればいいかと考えた。


そんなことを考えている間もおじさんは焼けた串焼きを焼き台から次々と僕たちに差し出した。

​「ありがとうございます……」

隣ではユズリハが受け取った串焼きをパクパク食べていた。

​「しかし、すごい量だな……」

​僕は、大量の串焼きを前に、困惑した。とても、三人で食べきれる量ではない。

​「マスター、この量どうしますか?」

​ツバキが、真面目な顔で僕に尋ねた。

「そんなの全部食べるに決まってるじゃん!」

ユズリハは食べる切る気まんまんだった。

​「ああ、大丈夫だよ」

​僕は、串焼きを一本ずつ、背負っていたナップサックのような鞄にしまうふりをして、そのまま倉庫に収納する。

​「うわっ、なにその鞄!串焼きをそのまま入れるの!?」

​屋台のおじさんが、僕の行動を見て、驚いたような顔をした。

「ま、まぁ……」

​僕はそう言って、ごまかした。

​「変な人だ……」

​僕の行動を、周りの人々が好奇の目で見ていた。

​「さあ、行こうか」

​僕は、少し恥ずかしくなり、ユズリハとツバキを連れて、その場を後にした。

「ふふ、マスター。面白いですね」

​ツバキが、少しだけ口角を上げて笑った。

​「えへへ、美味しいね、マスター!」

​ユズリハは、串焼きを手に、ご機嫌な様子だった。

僕たちは夜になった街を歩きながら、途中で宿の場所を通行人に聞きながら歩いた。

​「さて、宿はもうすぐだ」

​そして、大きな建物の前にたどり着いた。

​「夜明け亭」

​その看板には、確かに日本語でそう書かれていた。

​「ここが、僕たちの最初の拠点か……」

​僕は夜明け亭の看板をじっと見つめ、新たな生活への期待と、少しの不安を胸に、一歩を踏み出した。

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