第13話 馬車にて③

重たくなった空気を振り払うようにマルコが聞いてきた。

「先ほど傭兵たちに使っていましたし、もしかして冒険用に多少予備を持っているのではないでしょうか?」

それを聞いたグレンが期待の眼差しでこちらを見てくる。​

たしかに持っている。

それも回復ポーション(小)であれば、倉庫に掃いて捨てるほど大量にある


​僕は少し考えた。ゲームでは、簡単に作成していた基本アイテムだが、現実では傷をたちまち回復させていた。

需要がありそうだし、グレンたちのリアクションから見て、競合も少ないはずだ。

この世界で生きていくための日銭を稼ぐ手段として悪くないのかもしれない。


​「ええ。多少の持ち合わせはあります。ですが、これはあくまでも私や仲間たちのために持ってきたものなので……」

​僕がそう言うと、グレンは焦ったように言った。

​「そ、そうか……。だが、少しだけでも、お譲りいただけないだろうか?」

この世界での相場を知るためにもここでグレンたちに売ってみるのもいいかもしれない。

「ここで出会ったのもなにかの縁ですし、少しならお譲りできますよ」

僕がそう言うと、マルコは驚いた顔をした。グレンは食いつき気味に聞いてきた。

​「本当に!?」

​「ええ」

​僕が頷くと、グレンは興奮したように言った。

​「そ、それでは!一本、金貨一枚でどうだろう!?」

​「金貨一枚……」

​僕は、この世界の貨幣価値がよく分からなかったので、言葉を濁した。

「そういえば、僕はこの国の貨幣価値がよく分かりません。良ければ教えていただけないでしょうか?」

そう言うと、マルコは少し驚いた顔をしながらも例を出して教えてくれた。

「そうですね。例えば、これから行く街ではパンは銅貨5枚〜10枚くらいで買えます。宿も高いところを望まなければ、銀貨5枚程度あれば1泊できます。金貨1枚で銀貨100枚に相当し、銀貨1枚で銅貨100枚になります」

大体銅貨1枚が10円くらいの価値かと理解した。ということは金貨1枚は10万円くらいのはずだが、ザックやグレンのリアクションや貴重なものという認識を考えると納得できない点があった。

確かに10万円は安くないが、これくらいの金額で買えるならそこまで商人の彼らがそこまで食いつくのかと。

僕が「う〜ん」と悩んでいると、グレンが慌てて言った。

​「い、いや、間違えた!一本、金貨十枚でどうだろう!」

​こいつ、買い叩いてきてたのか……。僕はグレンの狡猾さに少し呆れた。そして、それに何もツッコミを入れないマルコも、やはり商人なのだと改めて思った。

​「色々教えていただいたし、今回は特別に一本、金貨十枚で大丈夫です」

​僕がそう言うと、グレンはものすごく嬉しそうに言った。

​「それはよかった!すぐに取引をしよう!」


グレンの態度の変わりように呆れつつ、ポーションを出そうとしたが、ここで倉庫画面を操作していきなり空中からものが現れるのもおかしいと考えて背負っていたナップサックのような鞄から出した体にした。

この鞄はゲーム時の主人公デザインでデフォルトで描かれていたもので、物が入っているかのように膨らんでいるが、中身は空っぽだ。

ちなみに同じようにデフォルトで描かれていて、今装備している短剣に至ってはそもそも鞘から抜けない。本当にただの飾りだった。


鞄から回復ポーション(小)を10本取り出すと商人たちは驚いた顔をした。

「10本も……」

「多かったですか?」

そう言うとグレンは慌てて、問題ないと言ってきた。

ポーションを10本渡し、グレンから金貨100枚を受け取った。

​「重たい……」

​僕は、ずっしりと重い金貨百枚の束を手に思わずつぶやいた。

​「ハハハ!重たいでしょう!これが、商売の醍醐味だよ!」

​グレンは、満面の笑みで言った。


僕は金貨を鞄に入れるふりをしてそのまま倉庫に入れた。

ゲーム時代にないアイテムも倉庫に入れられることを確認できて、こちらも一安心した。

その時、馬車の外から「そろそろ着くぞ!」という声が聞こえてきた。

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