第11話 馬車にて①
馬車は、森の中をガタゴトと進んでいく。僕は窓の外の景色を眺めながら、マルコの話に耳を傾けていた。
ここはヴァルザーク帝国という国で、周辺の国々と緊張状態にあるそうだ。
彼は、この世界のことを本当に丁寧に教えてくれる。おかげで、僕の頭の中の地図が少しずつ埋まっていくようだった。
「わがヴァルザーク帝国は、かつては内陸の小国でした」
マルコは穏やかな口調で語り始めた。彼の話は、ただの知識ではなく、故郷への誇りが感じられた。
「隣の大国、ロンドリウム王国からの不平等な貿易で、民は困窮していました。そこで、先代の皇帝陛下が立ち上がったのです。同じく王国に不満を抱いていた近隣の小国をまとめ上げ、一大帝国を築き、王国へ攻め入りました」
マルコは誇らしげに胸を張る。
「最初は善戦しました。王国領を切り取り、ついに海に接するまでになったのです。帝国史上、最も輝かしい時代でした」
しかし、その言葉の裏には、どこか悲しい響きがあった。
「ですが、王国は態勢を立て直し、数に物を言わせる攻撃で、わが帝国は防戦一方となりました。戦況は膠着し、小競り合いが続いていました。」
「それにしても圧倒的な国力差があるにもかかわらず、王国から領地を切り取り、守り抜いているなんて、ヴァルザーク帝国は本当に強いですね」
僕は心からそう感じた。それはお世辞ではなく、素直な感想だった。圧倒的に劣勢なはずの国がここまで粘り強く戦えるのは何か特別な理由があるに違いない。
「ええ。確かに、兵士一人一人の力は、わが帝国のほうが上です」
マルコは頷き、続けた。
「ロンドリウム王国では、ゴブリンなど弱い魔物しか出ないそうです。普段農作業をしている民兵でも何の問題もなく討伐できます。しかし、わが帝国は違います。オーガやワーウルフといった、より強力な魔物が跋扈しています」
オーガ……。僕がこの世界に来て、初めて遭遇したモンスターだ。
「ですが、そのおかげで、わが帝国の兵士たちは、幼い頃から厳しい環境で鍛え上げられます。実戦経験も豊富です。個々の兵士の力量では、王国の兵士に負けることはありません」
マルコは、そう言って微笑んだ。
彼の話を聞きながら、僕の頭の中で、一つの仮説が浮かび上がった。
この世界が、もしゲームのようなものだとしたら……
ロンドリウム王国はいわば「序盤マップ」だ。弱いモンスターしか出ず、プレイヤーは安全にレベルを上げることができる。一方、ヴァルザーク帝国は「中盤マップ」だろう。オーガやワーウルフといった、より強いモンスターが出現する。
そして、その環境の違いが、兵士の強さに繋がっている。ゲームでも強い敵と戦うことでより多くの経験値を得て強くなる。この世界の兵士たちも、同じ原理で強くなっているのではないか。
マルコの話は、僕のゲームの知識と不思議なほどに一致していた。
「なるほど……だから、国力差があっても、帝国は負けないのですね」
僕は納得したように頷いた。
「はい。そして、現皇帝陛下は国力を上げることに重きを置き、これ以上の無益な争いを望んでおらず、王国、そしてその属国のアステル公国と停戦を結ばれました。今は、王国の友好国で西側のラウム教国とも小競り合いがまだ続いている状態です」
なるほど、戦況は一旦落ち着いてるが、常に緊張状態にあるということか。
ゲームでは背景画として街や村があったが、それはあくまでも演出のためで、こんな国名も世界設定もなかった気がする。
まぁ、この世界はゲームと違って現実に生きているのだから、国や歴史があっても当然か。
馬車に揺られながらそんな事を考えていた。
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