第8話 ファーストコンタクト③

ユズリハからの戦闘終了の声で、僕はみんなに指示を出す。

​「よし、みんなはここに待機だ。シズク、隠密スキルで隠れてついて」

​「了解、マスター」

​シズクが木々の間を滑るように移動し、あっという間に姿を消した。

「ユズリハは一緒に来てくれ」

「はーい」

ユズリハは元気に答えてくれた。

「お待ち下さいマスター、私も連れて行ってください。まだ、相手の素性が分かっていません。私の心眼があれば敵意の有無を察知してすぐ対処できます。」

ゲームでは通常攻撃が常に1.5倍の攻撃力になるツバキのパッシブスキルである「心眼」にこんな効果があったとは……

「分かった。ツバキもついてきてくれ」

「はい!」

僕はツバキ、ユズリハとともに森から出て、行商人たちのもとへ向かった。


​戦闘があった場所は、地獄のような光景だった。護衛と思われる人々が何人も倒れ、血だまりが広がっている。あちこちに、オーガの返り血を浴びて倒れた行商人たちがいた。

​「……ユズリハ、すごいな」

​僕が思わずつぶやくと、ユズリハは誇らしげに胸を張った。

​「とーぜん!」

​その言葉に、僕は少し安心した。


​僕たちが近づくと、護衛の一人が警戒しながら僕たちに近づいてきた。彼は血まみれの剣を構え、顔には深い疲労の色が浮かんでいる。

​「あんたたち、何者だ?」

​彼は僕たちを警戒しているようだった。

​「私たちは冒険者です。このあたりを探索していて、戦闘の音を聞きつけて助けに来ました。」

​僕がそう言うと、彼は驚いた表情になった。

​「さっきの矢は君たちが?」

​僕はユズリハがやったと伝えた。

​「ああ、このユズリハが遠くから矢を放って、倒してくれたんです」

​「そうか……感謝する。おかげで、これ以上被害が出ずに済んだ。私はこの傭兵団の副団長、ザックだ」

​彼はそう言って、剣を収めた。

​「俺はロンメル。こっちは……」

​僕はツバキを紹介しようとしたが、ツバキが僕の前に出て、真面目な顔でザックに頭を下げた。

​「私はツバキと申します。マスターの護衛を務めております」

​「マスター……?随分と変わった呼び名だな」

​ザックは訝しげな表情を浮かべた。僕は咄嗟に、

​「ああ、俺の故郷では、護衛の主人のことを、そう呼ぶんだ」

​と、嘘をついた。

​「故郷……?あんた、このあたりでは見ない顔だな」

​「ええ。私たちは、お宝を探して旅をしているんです。でも、まだめぼしいものは見つかっていなくて……」

​僕はそう言って、少し悲しそうな顔をしてみせた。

​すると、ザックの後ろから、一人の商人が近づいてきた。彼は上質な服を着ており、商団の代表者なのだろう。

​「この度は、お助けいただき、ありがとうございます。私はこの商団の代表、マルコと申します」

​マルコはそう言って、僕に深々と頭を下げた。

​「いえ、困っている人を見過ごせませんから」

​僕はそう言って、マルコに笑いかけた。

​「冒険者、ですか。珍しいですね。傭兵とはどう違うのですか?」

​マルコは興味津々に僕に尋ねた。

​「えーと、傭兵は、お金のために戦うんでしょ?僕たちは、お金のためにというよりは、お宝を探して旅をしているんですよ」

​僕はそう言って、ごまかした。この世界に冒険者という概念がないらしい。咄嗟に「お宝探し」という設定を加えてしまったが、これからどう話を合わせるか。この世界の常識を身につけないと、すぐにボロが出てしまう。

​「そうですか……。冒険者、ですか。」

​マルコは少し残念そうに言った。

​「ご覧の通りの状況ですので、できれば、追加で腕のいい傭兵を雇いたいと考えていたのですが、残念です」

​マルコの言葉に、僕はハッと閃いた。この人たちと一緒にいれば、この世界の情報を得られる上に、街まで行ける!

​「あの、よろしければ、私たちが護衛を務めましょうか?」

​僕がそう言うと、マルコは目を丸くした。

​「本当ですか!?それはありがたい!是非ともお願いしたい!」

​マルコは心底嬉しそうに言った。

​「では、準備ができ次第、出発しましょう。少しお待ち下さい」

そう言ってマルコは馬車の方へ向かっていった。

そして​僕もツバキたちとともに少し離れた場所へと移動した。


​「マスター、よろしいのですか?なぜ傭兵の真似事を?」

​ツバキが僕に尋ねた。

​「この世界で、何も情報がないまま、僕たちだけで動くのは危険だからさ。この人たちと一緒にいれば、街まで行けるし、この世界のことも知れるだろうし」

​「なるほど。マスターの考えは、いつも深いですね」

​でも森で待機してるみんなはどうしよう……

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