第2話誕生〜王都へ
きゃー
「救急車、救急車呼んで!!」
「女の子がトラックに」
「これは助からないだろ…」
身体が動かない…
救急車のサイレンの音…
短い生涯の走馬灯…
「学校でひとりぼっちなの?大丈夫よ、お母さんだって仕事は忙しいけど優子の味方だし、これから優子をわかってくれる人だって絶対現れる。だから___」
________あきらめないで
目を開く。そこは地球では無いどこかの街の狭い路地裏。積まれた木箱の隙間でどうやら寝てしまっていたようだ。
また鮮明すぎる夢を見ていたみたい。命の灯火が消える瞬間の痛みや悲しみこの世への未練が襲って来る感覚はなんなのだろう。生への未練?そんなものないのに。今すぐ死ねるなら死にたいのに。
私は何処で産まれたのか、親の顔すら覚えていない。孤児院で生活していたけれど私の容姿が原因で3歳にして孤児院からも捨てられた。
私の髪は漆黒の様な黒髪でこの世界ではこのような子供が産まれると不吉とされている。
物心ついた時から街と森を行き来してどうにか生きている。
基本森で生活している。木の上に枝を引き詰め平にし、その上に木箱を乗せ、その中でバリアを張って寝ている。重いものでもどうにか引きずってアイテムボックスに入れられれば子どもの私でも持ち運べるのだ。
そして夜が空けると魔法を使って魔物を狩る。自分が食べる分意外の肉は街の肉屋に売る。店主には親が狩ったものを売りに来るのが自分の仕事だと嘘をついている。フードを深く被り深呼吸する。
「おばさん、肉売りにきたよ。」
「ネスかい。いつもご苦労さまだね。まだ小さいのに。」
ネスとは私の名前だ。物心ついた時から孤児院でネスティ(きっと悪口)と呼ばれるようになっていた。肉屋のおばさんに名前を聞かれた際名乗ったらそれ以降「ネス」と呼ばれている。
アイテムボックスから葉に包んだ肉を出し台に乗せるには身長が足りないのでおばさんに手渡しする。
「レッドボアとジャイアントスネーク1頭分だね。おまけで銅貨5枚かな。」
銅貨を受け取り小さな袋にしまう。
「あとこれ、私たち食べきれなくてよかったら食べないかい?」
肉屋のおばさんが店の奥から持ってきたのは木の実入りの長いパン1本だ。自分の身長の半分はありそうなほど大きい。いつもおばさんは何かと食料をくれたりする。
「いいの?」
目を輝かせる。
「いいんだよ。育ち盛りはおなかいっぱい食べないと。あと話したい事があるから少し奥に来ておくれ。」
不安もあったがいつも良くしてくれるおばさんについて店の奥へ入る。
おばさんが振り返ると私の目を見て話し始めた。
「あんた、親がいるって嘘だろ?本当は自分で魔物を狩って来てるんだろ?この前森で見てしまったんだよ、あんたが小さい身体で魔物を狩っているのを。」
そこまで聞いて身を固くした。
あぁ、もうおばさんは私の肉を買ってくれないんだ。そう思った。
「親がいないって言ってくれたらうちで面倒見たってよかった。黒髪だろうがあたしは関係ないよ。」
驚いておばさんの顔を見る。フードでいつも隠していたはずだったがばれていたようだ。それよりもこの世に自分を引き取ってもいいと思ってくれる人がいる事に驚いた。
「けどね、あんたを肉屋にしとくのはもったいない。才能があるんだよ。だからね、今夜王都に行く馬車がある。それに乗んな。」
「今夜?」
それからおばさんに今着ている布切れより格段にいい服や干し肉、干した果物等色々貰った。
「アイテムボックスがあると便利だねぇ」
夕方には笑いながら王都行きの馬車まで連れてきてもらい馬車賃まで貰った。せめて今までおばさんの肉屋で稼いだお金をおばさんに返そうと思ったけど「これは取っておきな。」と諭された。
「王都に行ったら騎士のヘスティ・ブランガにこの手紙を渡しな。」
おばさんから預かった手紙を大切にアイテムボックスに入れた。
「出発しますよー。」
馭者が言う。
「おばさんありがとう。いつか今日のお返しに来るね」
「子供はそんなこと気にすることないよ。しっかりね。」
人にこんなにも優しくされたことがないはずなのにしっかりお礼が言えたと思う。
しかし今朝までは自分が王都に行くだなんて思ってもみなかった。ただ地獄のように孤独な毎日の繰り返し、そう思っていた。
王都ガルビーには3日で着いた。
住んでいた街とは比べものにならないくらいの人、お店、活気…。
少しの期待と恐怖で身震いするほど。おばさんに貰ったヘアバンドとフードで髪を隠し、おばさんに聞いた屋敷を探す。
ブランガ邸は大きなお城を目印に王都ガルビーの街を進み、馬の形に彫られた街灯を右、5本の円柱型の塔と城が目印。おばさんがそう言っていた。
(ここで合ってるよね?)
「すみません、ヘスティ・ブランガさんはここにいますか?」
門番の人に聞く。
門番は足元にいる私の格好を見て面倒くさそうに
「は?こんな子どもが会えるお方ではない。帰れ。」
と冷たくあしらう。
「で、でも会いたいんです。手紙だって預かってるんです…。」
「いいから帰れ」
何度かこのやり取りをしていると馬車が門の前で止まり、言い争いをしていた門番が門を開けた。
馬車が門の中に入ったところで止まり、中から美しい銀髪の女性が降りてきた。
「なんの騒ぎだ?」
「いえ、この者がヘスティ様に会いたいと言って帰らないもので。」
「ちいさな客人、従者が無礼をしたな。部屋で話を聞こう。馬車にお乗り。」
銀髪の女性が私に馬車に乗ることを促した。
馬車は王都まで乗ってきたような庶民を乗れるだけ詰め込んだただの箱とは大違いだった。
「あ、あのありがとうございます。」
精一杯それだけを言い馬車に乗り終始緊張ともし肉屋のおばさんの手紙を見てもここで置いて貰えなかったらと心配で終始無言だった。ただ時折向かいに座る銀髪の人を見やるとやけに目が合う。敷地を抜け、城の入り口に馬車が止まった。
「おかえなさいませ、お嬢様。」
馬車の扉が開きヘスティが降り、私が馬車から転げ落ちないように支えて降ろしてくれた。
「ありがとうございます、ヘスティさん、、」
「庶民の分際でそのような敬称!お嬢様!このような庶民の子、如何なされたのですか?誘拐ですか?」
「んーこれからこの者に聞くところだ。私の部屋に菓子とお茶の準備を頼む。」
慌てる従者と何故か楽しそうなヘスティをみて戸惑い俯きながらヘスティに導かれるままに城に入った。
階段をたくさん上がり廊下を進む。
たくさんある扉のうちの一つを従者が開けヘスティが入る。私も入っていいのだろうか。
「お邪魔します…」
「名前はなんと言う。」
白を基調とした部屋の窓際の椅子に腰をかけ私に聞く。
「物心ついた時からネスティと呼ばれています。」
それを聞きヘスティさんの眉間に若干の皺が寄る。無理もないたぶん悪口で付けられた名前なんだもん…。
「あ、えっとこれ私がいた街で良くしてもらった肉屋のおばさんから預かって来た手紙です。」
アイテムボックスから手紙をだし、ヘスティの机に背伸びして置く。
ヘスティはそれを受け取り読み始める。
꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱
ヘスティ・ブランガへ
久しぶりだね。
覚えてないとは言わせないよ。
あんたに貸した借りを返すチャンスをあげる。
この手紙を持ってきたこの子、孤児院にすら捨てられた子をどうか養子にしてやって欲しい。
5歳くらいの小さな子だけど見ればわかるでしょ?この魔力の色も大きさも。大切に育ててこの子に生きる希望を与えてやって。
愛をネスに教えてあげて欲しい。
トステムの小さな肉屋のテア
꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱
「はぁ…」
確かにテアには大きな借りがあったが私が養子だと…?頭を抱えたくなるのをぐっとこらえ、目の前の小さい客人に目を向けた。
確かに会った時からこの小さな身体には似合わない程の大きな魔力を感じている。
「フードを取って顔を見せておくれ。ネス」
テアが手紙に書いてあった呼び方で呼んでみると小さい身体がビクッと反応したようだった。
侍女が2人分のお茶と菓子を持って部屋に入ってきた。
ネスは諦めゆっくりフードとヘアバンドを取り、顔と髪を露にした。
「きゃっ!」
横を通ったお茶を運んでいた従者がネスを見た瞬間驚きでお茶をネスに吹っかけてしまった。
黒髪に驚いたのだろう。
やけどの可能性だってある。ヘスティは咄嗟に立ち上がったがネスは俯いたまま微動だにしない。
(あぁ、ここでも受け入れて貰えないのか。)
「怪我は無いか?」
ヘスティが駆け寄る。
「はい…。おばさんが生きる希望をくれました。ここに来たら何かが変わるだろうと思いました。ヘスティさんの荷物持ちでも家の掃除でも何でもします。ここに置いてください。」
ネスは俯いたまま出せるだけの声を張り上げた。
これだけの感情と気持ちを精一杯出したのは初めてなんじゃないかと思うほど必死に。
ヘスティがハンカチで顔を拭ってくれていた。
お茶もだけど涙も出ていたみたい。
「テアがね、肉屋の女主人がお前を養子にして欲しいってさ。」
困った様に笑うヘスティ。
「ようし?」
首を傾げるネス。
「お嬢様!お相手も決まって居ないのに養子を取るなど!しかも出生もわからぬ不吉な子供などなりません!」
初老の男が慌てふためく。
「私は次期ブランガ家当主、跡取りまで出来たら結婚の心配も無くなったじゃないか。」
ヘスティは笑う。
「ネスすまないが少し容姿と名前を変えても良いか?」
「理解が追いつかないけどとりあえず頷く。」
ヘスティがネスの髪をなぞりながら呪文を唱える。
「汝 この者の髪を私の髪と同色に変えよ 」
何が起こったのだろう。
「さぁ、このお茶とクッキーをお食べ。食べたら疲れているだろうが庭まで付いてきてもらうよ。」
外は夕日も沈みかけている。何が何だか分からないけど急いだ方がいい気がして差し出されたお茶を飲み干し、クッキーも食べた。
ものすごく美味しくて目が輝いた。
「気に入ってくれて良かった。さぁ庭に行こうか。」
ブランガ邸裏庭は温室と建物の中にある訓練所、何も無い芝生があった。今はヘスティさんに連れられてだだっ広い芝生に来ている。先程私にお茶をかけた従者と不吉な子供と言った初老の男も一緒だ。
「ちゃんとした名前は後ほど私が考えておく、とりあえずネス、私に死ぬ気で掛かって来て欲しい」
銀髪が夕焼けになびく。
「??」
首を傾げる。ヘスティさんに攻撃なんて…。
「大丈夫、私は騎士団の団長をしている。お前が野で魔物を狩っていた時の力を見たいだけだ。さぁ今の本気を見せてみろ」
ヘスティさんの目の奥の強さと魔力で雰囲気が変わった気がした。殺らないと殺られる。そんな感じがして足が 手が動く。
氷魔法_魔物を狩る感覚で氷を極限まで鋭く、土魔法を少し併せ強度を上げ、風魔法で速度を上げヘスティに放つ。
「汝 我に氷の刃を与えん___」
ヘスティは氷の剣を出し、剣で払い除ける。
ヘスティさんが氷なら…
魔物狩りの時は肉の品質に影響するのであまり使わなかったけど炎と風で炎を増大させ放つ。
ヘスティさんの動きが素早いから土魔法で地面を粘度をあげて足元を沼地にしたり草魔法で芝で足を絡ませたりしてヘスティさんのスピードを捉えた。
(何種類もの魔法を同時に?しかも無詠唱で…。)
(今だ___)
ネスはヘスティさんと同じ氷の剣を出し、距離を詰め姿と魔力を消す。
(姿も魔物も消えた…!!)
ヘスティは驚く間もなく素手で物体を捕らえた。
紛れもなくネスだ。
「え?なんで、、?」
最強の賢者と言われてますが中身は凡人です @nomuneco
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