第17話 夏の終わりの宴

 海に行った日はあんな炎天下に晒されていたのに先生はお元気だった。帰宅後すぐにピアノの部屋にこもってずっと楽譜を書いていたよう。ドアの隙間から見えたその姿は随分集中しているご様子、見慣れたあの作曲家の表情だった。

 海風に吹かれた後なのに大丈夫かな、と心配だったけれど、ああいう時の先生には声を掛け難いしどうせ呼んでも聞こえない。気が済むまで好きなようにしていただくしかない、ということはしばらく一緒に過ごしてきたのでもう理解している。

 それに、作曲に集中するいつもの先生が戻ってきて私はうれしかった。ずっと体調が不安定だったから先生のそういう光景を見るのが久しぶりのような気もしていたし、だけどあの姿が一番先生らしい。だから、よかったな、と思って。

 可能ならなるべくそういう時間を多く、いつもの先生らしく、一人音楽に没頭して過ごしていただきたい。

 先生にはいつも音楽のそばにいていただきたいし、それが一番お似合いなので。


 そんな私のささやかな夢はだけど、一瞬のものだった。それ以来、先生の体調はまた降下して、なかなか普通には戻らなくなってしまった。しかもそれが徐々に悪化しているような気がして、私はただそれを見ているだけで良いのかどうか、どうすれば良いのか分からず、だけど何も出来ずにひたすら不安で……。

 先生は熱があるし咳をする。それに倦怠感がひどいらしい。そして手が震えている。何かしらのウィルスに感染してしまったのかな……。それとも何が悪い病気の原因が体の中に……。それならとにかくやっぱり…病院で検査を受けた方が。

 心配して見つめる私の目の前の先生は顔色が良くないしその瞳には力がない。

 楽になるはずだからどうか病院に行きましょう、と先生に言ってみても、動けないから今は病院になんてとても行けない、起き上がることさえできないのだ、と断られてしまう。

 どうしよう……。往診してくれる医師を探す? 救急車?

 だけどなぜか私も、先生を他の人に見せることに不安があって……。この、外に対する気まずい感じは一体何だろう……。医療サービスを受ける時にはこの人がどういう人なのかを説明する必要があって……


 何もできないままで数日間。熱も咳も良くならないし倦怠感も憑いたまま。震えが出ているのが怖い。吐き気があるようで、そうすると話しかけるのも申し訳ないような気がして、でも放置もできなくて……

 どうしよう……

 ただひたすら、早く良くなってほしいと祈るだけで何もできない。熱と咳で随分消耗しているようだし倦怠感で動く気力も出ないご様子。

 どうしよう…どうしよう……。どうしよう、先生がこのまま死んでしまったら。この状況、どうしたらいい…?

 まだお母さんと別れたばかりなのに、先生までいなくなったら私…もう……。

 お母さん、私はどうすればいい? 助けて……

 私にはどうやって先生を治してあげたらいいのかその方法が全然わからない。

 でも……。口には出せない違和感というか、変な胸騒ぎがあって……。でも、そのことには気が付かないように目を逸らし続けていて……

 心の中が寒くて怖くて、気分の悪いざわめきが止まらない。

 先生……。起き上がってピアノを弾いてください。

 先生が楽譜を書いている時の、あの集中して情熱に動かされているような、あの横顔を…以前のように気付かれないよう、密かに眺めていたい。

 もう、何もいらないし何も望まないから……。


 何もできない私はだけど、仕事を休めず。

 もし先生が感染症にかかっているのだとしたら……。毎日その近くにいる私だってその病気を広めてしまう可能性がある?

 もしもそうなら…子ども達にも同僚にも移すわけにはいかないし、そしたらこの状況を職場に報告した方が……。

 自分がしている仕事の責任とか……。もし何かそういう病気を広げてしまう原因に自分がなるのだとしたら……。いっそのこと私はずっと休んで先生の看病をした方がいいよね……。私だってそう思う。先生のためにも、職場のためにも。私の精神のためにも。

 だけど言えなかった。なぜかどうしても職場にそれを言い出すことができなくて……。

 もう、何かあったら退職する。そうしよう。許してもらえないのだとしたら、そうするしかない。先生のためなら今すぐにそうしたって構わないけれど……

 私はそれなのにどうして、何もできずに、ただここで動かず、何の行動もできないのだろう……。


 薬やゼリーを先生のベッドの近くに置いてうなされているその姿に後ろ髪を引かれながらも私は今日も静かに仕事に出掛ける。

 不安なまま仕事をして急いで帰るとまず、先生が息をしているかどうか確かめに行く。本当にもう、いろいろと心配で……。

 ベッドにいる先生がうとうとしながら、でもどうにか私の呼びかけに答えてくれるとほっとして、だけど今日も変わらず具合が悪いんだ、と不安になって……。

 普通の風邪だったらもういい加減回復してくるはずなのに……。一体何の病気…?

 何日も入浴できていないことと熱のせいでしっとり束になってウェーブのかかった先生のかわいらしい茶色の髪を触る。

 先生のお母様がいたら、先生がこんなに具合が悪かったら心配するはず。先生、どうか…元気になってください……。

 薬にスポーツドリンク、果物にラムネ、アイス……。

 どうすれば回復できる?

 いろいろと考えて思い付いた。先生がお好きだとおっしゃった「グラーシュ」を作ってみようかな。

 だけどそんなの…食べられる体調ではないかな……。でも、見るだけでも……。故郷の食べ物がいいに決まってる。ここは先生にとっては全てが異質な居心地の良くない世界なのかもしれないから。せめて一つや二つは馴染みがあるものを。


 それで翌日、材料を揃えて調理。

 グラーシュは煮込み料理。季節はなかなか過ぎ行かなくてまだ暑いからこんな季節にこういう料理を作るのも食べるのも暑苦しいのかもしれないけれど、先生はご自分がいた元の世界が恋しいに違いないから。

 ネットのレシピを見ながらどうにか……。

 玉ねぎ、にんじん、パプリカをみじん切りに。牛肉を焼く。みじん切りの野菜を加えてさらに炒める。ケチャップと赤ワインを入れて沸騰させるって…? ケチャップなんか先生の時代にもあった? 

 体調があんな感じなのに牛肉とか…大丈夫かな……。でも…無理ならスープをひとさじだけでも……。

 火にかけられた肉がこちらに飛ばしてくる脂がおいしそうな香りだと思うけど、先生にとってはどうかな……。

 こんな…赤ワインで煮込むような料理はしたことがなかった……。先生のためなら何でもするけど、慣れていないからこの料理の味の自信が全然ない……

 検索ついでに出てきたクヌーデルというじゃがいものお団子にもチャレンジ。先生が食べていたものとは違う代物になっているかもしれないけれど、もし見覚えがあって故郷を思い出すことができたら……。


 どうにか完成した料理。立ち上る湯気の香りは、私からするとなかなかおいしそうに感じられるけれどどうだろう……。

 見た目はシチュー。それで味は…先生の時代の、先生の世界のものには…多分なってはいないのだろうな……。その時代の料理なんか食べたことがないから分からない……。

 先生…体調、どうだろう。先生がいる部屋のドアを叩いてみる。

「先生、お加減いかがですか?」

 返事がないので勝手に入っていく。

「先生……」

「詩さん」

「先生、今日はグラーシュを作ったんですよ」

「詩さん、グラーシュをご存じなかったのに、それを作ることができたのですか?」

「ええ、まあ…その…ネットで見たレシピで……。先生がお好きな味かどうかは自信はないのですが……」

「ああ…それならぜひ…食べたい…とは思うのですが……。明日まで待っていただくことはできますか?」

「はい……」

「今日は…ちょっと具合が……」

「分かりました。無理はしない方がいいですよね……。お食事以外で何か欲しいものはありますか?」

「いえ、大丈夫。もうすぐ良くなりそうな気がします。だから……」

「では……。何かあればいつでも呼んでくださいね。先生のことが心配です……」

「あなたがいてくれて、ぼくは幸せですよ」

 力なく笑おうとする先生を見ていると悲しくて愛おしくてもっと近寄りたい気持ちがどうにもならなくて涙が出そうになる。

 先生が体調を崩し始めてから何となく感じていることがある。体調の良くない先生はその存在がどこか透明で、その実態がないようなふわりとした不思議な感触。空に浮かぶ雲がそこに確かにあるのに決してこの手ではつかむことができないような、そんな感じ。

 先生は確かにここにいる。だけどなぜかそこにはもういないような気がして、それを思い出すと不安になる。でも、熱があるかどうかと額に手を当てると私の体温よりもずっと熱く汗でしっとり湿った人間の感触を確認できるし、私を見る先生のその茶色く輝く瞳が幻であるはずはない。



 翌日、いつもと同じように心配しながら帰宅すると先生が体を起こしている。今日は……

「先生、ただいま。お加減は……」

「詩さん。お帰りなさい。あなたが帰ってきてくれてうれしいです」

「私も……。先生が起き上がっていて…うれしいです……。今日の体調は…いかがですか?」

「心配してくれてありがとう。今日はこうして起きています」

「あの、昨日よりも顔色も少しは……。体調が…少し…いつもよりも良さそうで良かったです。あの、もし良ければ…ほんの少しでもお食事とか……」

「楽しみに思っていました。グラーシュを昨日ご用意くださっていたんですよね?」

「はい……。でも、その……。出来は…その味はご期待に添えないと思いますけど……」

「詩さんはいつも謙虚でいらっしゃいますよね。あなたのそういうところもぼくはあなたの長所だと思っています」

「いえ、そんなことは……」

 先生は私を見て微笑む。それで私はほっとする。

「昨日は食べられなくてすみません。今日はその料理を拝見してもいいですか?」

「ぜひ。その…お食事は…できそうな体調ですか?」

「どうにか、ご一緒できそうですよ」

「良かった……。では……」


 それでだから、すぐに食卓を整えて渾身の料理を披露。昨日の料理をそのまま冷蔵庫に入れてあったので温め直す。

 ゆっくり歩いてテーブルまでどうにかやって来た先生。並べた料理を見て喜んでくれている様子。それともそれも、先生のいつもの優しい気遣い、なのかな……。

「ああ、詩さん。すごいですね。見覚えがある料理です。この世界でこういうものに出合えるなんて」

 先生、笑顔。私は数日ぶりに安堵。

 やっぱり、今までの食物は合わなかったのかな……。体調不良はそれで? だったら先生の具合が良くないのは私のせい?

 何となく申し訳ないような気持ちのまま私もテーブルへ。

「味の保証はできないのですが……。お口に合わなかったらどうかご無理はなさらないでくださいね」

「はい、ありがとうございます。では食前のお祈りを、良いでしょうか」

 祈るシューベルト。すっかり見慣れたこの光景も、最近の不安定な体調で一緒に食事ができないことが多くて……。先生のどんな仕草も愛おしい。

 そうして食事に手を付ける先生をじっと見つめてしまう。

「詩さん。そんなに見つめられると……」

「そうですよね。食べにくいですね。すみません……」

 でもやっぱり、先生の反応が気になって見てしまう。

 先生はスープをそっと掬って口へ……。私、先生のことを観察し過ぎかな……。

「先生……」

 私の目線に耐えられないようで先生は笑い出す。笑ってくれて良かった。もうずっと体調不良の表情ばかりを見ていたから……。

「先生…いかがですか…?」

「ええ、そうですね。何と言うか、その…おいしいです。とてもおいしいのですが、ぼくが元の世界で食べていた味とは少し違うかも」

「そうですか……。それは…そうですよね……。すみません……」

「いえ、ぼくは…もちろん、こちらの方が好きですよ」

 この笑顔。先生の子どもみたいに純粋で優しい笑顔に癒される。私達は確かにここに二人でいる。なぜかそんなふうに思う。

「先生。どうかご無理なさらず」

「はい。詩さん」

「はい……」

「本当ですよ。この、詩さんが作ってくださった料理はとても素晴らしいです。ぼくは元々この世界の食べ物をおいしいと思っていたので不満はなかったんです。詩さんが用意してくださる食べ物はいつも何だって気に入っていました。でも今日のこれは、懐かしいしおいしいし、詩さんのそのお気持ち、それ自体がとてもうれしいのです」

 優しい人なんだな、と思うし、気を遣ってくれているのだろうな、とも思う。

「詩さん」

「はい」

「お酒はありますか?」

「あ、はい。何がいいですか? ワインがいいですか?」

「はい。詩さんもご一緒に。飲みませんか?」

「そうですね。先生、体調、大丈夫ですか?」

「今日はとても気分が良いし、詩さんがこういう料理を用意してくれたことがうれしいので」

「そう言っていただけると何だか安心します。そしたらワインをお持ちしますね」

 それで二人でどうということのない話をしながらワインを飲んでグラーシュを食べる。

 この、初挑戦の料理、グラーシュ、我ながらそこまで酷くはないかな、なんて思っていたけれど、先生はまだ体調がそこまで回復してはいないのか、食事の量としては半人前も食べてはいなくて、ただひたすら、少しずつワインを飲んでいる。

 でも、表情もご気分も昨日よりは悪くなさそう。安堵と、まだまだ心配だな、という思いと、先生のやわらかい声を聞いていられる幸せと。

 いつも以上に先生の仕草を、表情をじっと見てしまう。

 先生、好きです。好きだから……。お身体のことも、何もかも…心配なんです……。私達、これから二人で……

 気持ちが言葉になりそうなのを必死に抑えておかないと……。

 こんなに近くにいて、こんなに好きなのにそれを隠し続けながら生活しないといけないなんて苦しい……

「先生、何か…果物か何かお持ちしますか? グラーシュはもう明日、私が食べますから」

「詩さん。ありがとう。消化器は徐々に回復していくと思います。明日体調が良ければだからぼくもまた明日、もう一度いただきます」

「そうですか……。どうかご無理はなさらず……。私は料理の腕をもっと上げるべきですよね。もっと、先生の世界のメニューの修行をします」

「いえ、もう十分ですよ。本当に、ぼくは毎日素晴らしい料理を拵えてもらって、それをとても幸せなことだと思っています。詩さん。あなたの料理はぼくの母のものよりもおいしいです」

「いえ、それは言い過ぎです……。私なんか手抜きで……」

「ぼくはこの世界にあなたがいて良かったな、とずっと思っていたんです」

「先生……。時代も国も違うところに突然投げ出されて…お辛いですよね……」

「いいえ。ここにはあなたがいるから。むしろ、この訳が分からない筋書き、全然悪くないと思っています。しかし…ぼくはいつまでも詩さんに甘えているわけにもいきませんよね」

「いいえ、先生……。どうか…ずっと……」

「詩さん」

「はい……」

「宴を開きませんか?」

「はい? 宴?」

「あなたとぼくとで、宴です。今から」

 腕をつかまれピアノの前に連れてこられる。

「詩さん、見ていてください」

 ピアノの譜面台には手書きの楽譜が載せられている。

 先生は自作の曲だ、とピアノの演奏を披露してくれてこの音楽は聞いたことがあるような気がする、と思いながら先生の奏でる音に浸っていたらピンときた。教会で先生がオルガンで弾いていた曲。先生が神への感謝と私への想い、とおっしゃっていた、その時の曲では?

 その曲は一曲の連なりを保ったまま歌曲になっていく。ピアノを弾きながら先生が歌っている。何とも特徴的な歌い方。私を見て微笑みながら甘く歌う先生に私はどういう反応をすれば良いのか分からなくて……。先生はピアノも上手いけれど、歌も上手い。ピュアな歌声が私の心を直接震わせて鳥肌が……。

 今日はピアノが弾けるということは、手の震えもない、ということですよね? もう私…何もかもが心配で。

 寄せては返す安堵と不安。

 不思議なのだけれど、この時に先生が歌っていた歌詞の内容が私の頭の中には全く残っていなくて、どんなことをどんな言葉で歌っていたのか…この場面の記憶全てが抜け落ちている。

 そんなふうに二人で過ごしていたら何だかすごく楽しくて、音楽っていいものだな、なんて理屈抜きに思って幸せを感じる。


 それから二人でピアノと歌で音楽の宴をしながらさらにお酒を飲んで遅くまで楽しく過ごす。先生が楽しそうで、今日は先生の体調が良くて本当に良かった、と瞬間ごとにほっとする。こういう感じが久しぶりだったから、良かった……。


 窓の外ではかたかたと風の音。明日の朝、超強力な台風がこの場所を直撃するらしい、とニュースで見掛けたから、きっとその予兆。


 二人でそんなふうに遊んでいるうちに先生のご様子からは体調不良がそれほど感じられなくなってきて、いろんなことが軽やかに、悩みなく過ぎているような気がしていて、私の心も軽くなっている気がしていて。ずっと心配で気が重かったから。私の心の重さは昨日まで水を吸った毛皮のようだった。だけど今は水分なんか一ミリもない、それだけでふわりと舞い上がることができる一片の鳥の羽のよう。とにかく本当に良かったなって。

 先生はご機嫌良く、リズミカルな舞踏音楽を奏でたり、歌を歌う、と言って長調の優しく軽やかな曲の弾き語りを始めたり。

 先生の歌……。言葉が…全然分からない……。曲が終わってから先生に訊いてみる。

「先生……」

「はい」

「今のは、メロディーはとっても魅力的で私にも分かりましたが、歌詞が……。この歌で先生は何を歌っていたのですか?」

「これはね、幸せについての歌ですよ」

「幸せ?」

「幸せって、何でしょうか。詩さんにとっての幸せって、何ですか?」

「え? ええと……」

「詩さん」

「はい……」

「この歌は、空よりもっと高い、天上の世界の美しさを歌っています」

「そうなんですね……」

「だけど、この曲の終わりで真相が分かります」

「真相? 何ですか?」

「天上の世界よりも美しく幸せなことがある。だからこの世にとどまっていたい。そんなふうに歌っているんですよ」

「へえ…そうなんですか」

「詩さん」

「はい」

「あなたこそ、ぼくがこの世界にいる理由です。この世界に来ていろんなことを考えました。そして思っています。ぼくは女神がいて天使が舞う天国より、あなたがいるこの世界がいいのだと」

 先生の茶色い瞳はいつも輝いている。いつも光があふれていて優しくて……。

 私を見て微笑んだ先生のことが愛おしすぎて、猫背でピアノに向かって座っていた先生を私は後ろから抱き締めていた。抑えきれず無意識に。気が付いたらそんな行動に出ていて、あ、これはさすがに、まずかったかな、と我に返りながらも私が先生の温かい背中にもたれかかると先生は一瞬驚いて、でもやっぱりいつもの優しい落ち着き具合。

「詩さん。楽しんでいただけていますか?」

「はい、先生。とても楽しいです。音楽って素敵ですね。あの、先生」

「はい。どうしました?」

「言っても、いいですか?」

「何を、ですか? どうされました?」

 先生の顔がこんなに近い。先生の背中の温もりを感じながら、やわらかく縮れた髪をくすぐったいと思いながら、先生の背中にあふれ続けて抑えきれない想いをつぶやく。

「好きです。私は先生のことが大好きです。ずっとこの世界に、私のところにいてくださいませんか。どうか、ずっと……。この先も私と一緒に」

 後ろから先生を抱き締めていた腕でさらに先生の体を強く締める。

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