第18話 別れ

 それから目を覚ますと私は一人だった。外はひどい嵐。雨風が屋根に打ち吹きつける直接的な音がする。そういえば最強の台風が直撃するから命を守る行動を、なんていろんな報道で騒がれていた。私は今日の仕事が休みだったからあまり気にしていなかったけれど、予報の通り今、それがここに直撃しているらしい。今日は外には出られない。

 そう思いながら昨晩のことを思い出す。昨日の出来事。私は先生と……

 先生のベッドをのぞくと…いない……。もう起きていらっしゃる? お手洗い?

 何か妙な予感がして家中を探したけれど、なぜか家の中のどこにもいない。先生……

 突然心臓が高鳴り緊張で体が固まる。猛烈な後悔。間違えた。私が何かしらの行動を間違えたから。そうに違いない。それならそれは…どこからが間違いだった? だって、そもそも……

 でも、分かってる。決定打になったのは…私が思いを先生に伝えてしまったから。それしか考えられない。

 自分の気持ちなんか、声に出して先生に伝えたら駄目だったのに。

 私は……そのままで良かったはず。私は先生がただそこにいれば、本当にただそれたけで……。何だって良かったしそれ以上何を望むつもりもなかったはずだったのに。それなのに私はどうして……


 家中から先生のいた形跡が消えていて、いつもなら置きっぱなしのピアノの部屋の机に置かれた書き途中の楽譜も、先生のために用意した日用品や衣類も全て消えている。そうだ、と思って探してみた手元にあるはずの一緒に行った先生の交響曲が演奏された時のコンサートのチケットもどうしても見つからない。昨日まで財布にそのまま入れっぱなしだったはずなのに、なぜ……。

 やっぱり先生は幻だった? だけど昨晩確かめたあの肌の温かさ、あの感覚が幻なはずはない。先生の温かい背中と私の頬に感じた先生の茶色く細い巻き毛。先生に出会って以来一緒に過ごした時間の全て。これまでに先生が私に言ってくださった言葉も、先生が眺めて喜んだ美しい空も、どうしたって現実のことなのに……。

 先生が私の心を震わせたあの教会のオルガンの音。昨日楽しそうに歌っていた先生の優しいあの歌声。

 それが私の耳の中にまだ残っているのだから、先生が幻であるはずはない。

 だけど……

 あんなことがあったとしても…たとえ私が思いを伝えてしまったという間違った行動をしたのだとしても…先生のお人柄なら……。先生がもし私の元を去ることをご自分で決めたのだとしたら、先生は私に挨拶もなく出ていくはずはない。

 もし先生から「もう出て行く」と言われたら私は何としてでも引き止めていただろうけれど……。


 もう一度、先生、と呼びかけながら家中を探して回る。

 私は先生が具合が悪そうなのが心配で、不思議な人物だった先生とこの世界で一緒に過ごしていくのならこの先、私達の時間ってどんなものになるのかな、なんて…そんなことを考えていたのだけれど……

 先生、今すぐ戻ってきてくださいませんか……。私の行動が、言葉が間違っていたのなら謝罪して取り消して改めます。だから…先生、どうか…私のところへ……

 だって、こんなの……


 こんなに突然、このタイミングで、こういう形で別れが訪れるなんて……。

 先生はもうどこにもいない。それはもうほとんど確信だった。自分の胸に浮かぶこの勘は確実なもので、もう私は先生に会えない……。

 先生は私のしたことが気に入らなかったから出て行った?

 それとも…元の世界に……


 私は先生がこんなふうに突然消えてしまったことが信じられなくて途方に暮れていた。消えてしまった先生。

 午後になって嵐が去ると太陽が出てきた。何も出来ずに家にこもっていたけれどふと気が向いてドアを開けてみる。すると陽がもう向こうに沈んでいこうとしている。空はあり得ないほどに濃く美しい透き通ったオレンジ色。

 それでも先生は現れない。そのまま夜になって、さらに翌日の朝になってもやっぱりいないまま。

 先生がどこかに倒れていたり苦しんでいたりしたらどうしよう……。

 そんな不安な気持ちのまま緊張して家で一人、私はずっと先生の帰りを待ってみる。

 その次の日も。さらにもう一日、そしてその翌日も。

 やっぱり先生はいつまでも帰ってこない。

 先生、突然どちらへ行かれました?

 待ちながら、だけど実は先生は元々いなかったのでは、なんて…徐々にそんな気もして……。

 先生を目の前にしていた時と同様、ふわりと現実味のない、つかみどころのない空気を見ているような気分になる。現実、先生が目の前にいても実感がないような気がしていたあの時と同じ感覚。

 そんな感覚が今さらここで急速に胸全体を覆うほどに膨張して、ついにそれこそが現実なのだと思い知らされているような気がして。


 私は長い夢を見ていた?


 先生が戻ってこない現在、目覚めと同時に夢と現実の境目を確認するような気分になる。

 夢の中では夢を夢だと思ってはいない。だけど、目が覚めて現実に戻るとこここそが現実なのだと思い出す。夢の中ではその世界を現実だと信じていたはずだった。だけどやっぱり現実はこちら。夢から覚めてしまえばごく普通に、毎日ここにある揺るぎない現実に戻って何食わぬ顔をして生活を再開する。

 先生は私の中のそういう…夢の欠片だった?

 いなくなってしまうともう、その地点から時が過ぎていくほどに先生の姿がどんどん遠ざかって先生が本当にここにいたのかどうかさえ、もう今の私には分からない。

 私達の今までの時間は? 先生と私は本当に一緒にいた?

 自分の記憶に全く自信が持てない。


 保育園での仕事をしていても心の中はまるで空洞。ずっと上の空で子ども達から話しかけられてもうまく笑えないほどの喪失感。母が亡くなった時よりもひどい。

 何が本当のことなのか、この現実にいるはずなのに、何が現実なのか分からない。先生がもういない。先生は確かに私のそばにいて、同じ部屋で食事をしたり音楽を楽しんだりしていたはずで…そして私は先生のことが好きだった。

 やっぱり…あれが夢や幻であるはずはない。私達はさよならさえ言えずに突然別れさせられた……。

 同僚から心配された。母を亡くしたショックが時間差で今頃私をおかしくしているのかも、なんて言われて、それは大丈夫、と答えると、場を和ませようとした他の同僚が冗談で言った。「それなら失恋でもした?」

 そう言われてはっとした。確かに私は恋心を抱いてはいたけれど、恋愛の最中である自覚がなかった。先生のことを好きだったけれど、そうならないように毎日必死にその気持ちを抑えようと逆方向に自分の気持ちを引っ張っていたから。そしてその苦しみには無自覚だった。

 だけど私は確かに恋をしていた。私は先生に恋をしていて、思いを直接確かめ合ったわけではないけれど、先生と心を通わせ始めていたような、そんなつもりでいて……。

 だけどそれが突然分断された。私はなぜかこの世に現れたシューベルトに偶然出会ってその人に恋をした。そしてそれを失った。

 これを失恋と言うのかどうか……。だけど……

 先生……。

 私は、言いようのないほどに強い恋心を…どうにか抑えようとしながらも抑えきれず……だからそれを失った……。

 だって私は先生のことが誰よりも何よりも大好きで…一緒にいられて、ただそれだけで、その瞬間ごとに全てのことが幸せだった。それなのに……

 先生……。私のせい…ですか? それで元の世界にお帰りになったのですか? こんなに突然、何の知らせもせずに?

 それなら…ここを去る前に教えてほしかった……。もう行くのだと、言ってほしかった……。だって最後の挨拶くらい……


 スマホでもう一度「シューベルト」を検索する。やっぱり…1828年十一月十九日、三十一歳で亡くなった、と出てくる。

 先生がワープしてここにいたのは先生の人生のどの部分…?


 先生は元の世界に戻ったのか、それとも、ここにいたのは先生の夢の中の出来事だった? それなら私は一体何?


 先生は言っていた。自分の思いと言葉は先生の音楽の中にある。

 先生が私にそれを伝えたのは、先生にはこうなることが分かっていたから? こうなった時には先生の音楽からそのお言葉を……なんてそんなこと…私なんかにできるはずがないのに……。私は素人だし、先生の音楽からそれを読み取るなんて……。

 だけど先生がもういないのなら、答えは先生の音楽の中にしかないのかもしれない。そこから何かを読み取るしかない? でも、そんなの難しすぎる……。



 それから数日後、ピアノの部屋を掃除していたらピアノの下から紙が一枚。五線譜用紙? これは…先生のもの…?

 楽譜だ……。先生が書いたもの。先生の唯一の欠片……。

 タイトルは……。何て書いてあるのか……全然読めない……。 M…何…? 崩された筆記体で一体何と書いてあるのか…解読不能……。

 曲はまだ作曲の途中らしく二段程しか書かれていないけれどそこには小粒に舞う見慣れた先生直筆の音符が散りばめられている。何の曲…?

 この紙を見つめて音符を指でなぞる。この手書きの音符の流れ方。先生がどんなスピードでどんなふうにこれを書いていたのか想像できる気がする。

 頭に浮かんだ音楽を、そのイメージが消える前に書き留めなくては、と先生の手はいつも急いでいた。ここにある音符もそうして書かれたものらしく、この音符を書いている最中にはもうその次の音を書きたい、そんな先を急いでいた先生のご様子がこの黒く小さな粒の歪んだ形から読み取れる。

 先生の姿が浮かぶ。やっぱり、先生は確かにここにいた。

 楽譜を書く時、先生の手は脳内の音を瞬時に記録するには現実がそのスピードに追い付けずに、だからいつもそのギャップに焦るような思いを抱えていたご様子だった。

 楽譜を書く時の先生の仕草。ドアの隙間から時々そんな集中している様子が目に入ることがあった。

 先生が置いていったその楽譜からそんなお姿を思い出したら…先生がいない、ということを改めて実感して、そうするともう…寂しすぎて……

 夢ではない。先生はここにいたし、私と心を通わせた。先生はこのピアノを鳴らして歌って私を楽しませてくれたし、それは確かに現実の出来事。

 今はもうこの音符の粒一つずつさえ愛おしい。だって先生が書いたものだから。

 この楽譜……。それほど難しくもなく複雑でもなさそうだったのでこの五線譜の音符を試しにピアノで弾いてみる。シューベルトの作風らしい繊細で優しく心の中を描いたような曲。これって……。あの曲……

 この音。この微妙に儚いハーモニーが先生の声のようで、自分で押しているピアノの音に切なくなって苦しくなる。

 先生の声を思い出す。あの声、あの優しい言葉。



 あの日、楽器店にいた先生のことを思い出す。

 不思議な人だった。謙虚で大人しくて、まず歴史的大作曲家には見えなかった。小柄で全体的に密度の詰まったような厚みのある体。曲を書いている時の集中に満ちたあの横顔。インスピレーションを書き留める時の燃える瞳。空を見て木々を見て風を感じて、心地良くてぼくは幸せだ、と言った時の純粋な表情。

 繊細で素直な感性を持っていて、そして音楽に選ばれた人だった。たくさんの音が先生に書き留めてもらうために先生の頭の中に押し合い常にひしめき合っていて、先生はいつもそれを取り出す作業をしていた。それこそが先生の才能。その音楽はとても優しくて、時にはユーモアも含んでいて。だから先生はどんなことがあっても、生活が豊かでなくても、とにかく音楽で生きていくしかなかったのだろう。

 あの情の深さと誠実さできっと周りの人達から多大に愛されて、だから偶然そこに居合わせた私からも愛された。

 そして先生は人から受けたその愛を、どの人に対しても、その優しい人柄とその音楽で十二分に返していた。

 もっと思う存分に音楽を、作曲をさせてあげたかった。


 先生がもうかなり昔に亡くなっていることを私は知っていたはずなのに、そしたら私とここで数日間共に暮らした先生は一体何者だったのだろう。先生はどうやってここに来て、どうしていなくなってしまったのだろう……。

 その原因はきっと、私が先生を好きになってしまったから。そんな気持ちを抱いてはいけなかった……。

 もしもその気持ちを言わずにいたら、まだ一緒にいられたのかな……。

 私は先生を好きになってはいけなかった。きっとそういうことなのだと思う。私達は時間も場所も何もかも、持っている背景が違う、出会うはずのない人間同士だったから。

 それなら先生はなぜこの街に来て私に出会ったのだろう。どうして私は先生への気持ちを尊敬だけに留めておけなかったのだろう。

 だけどあんなの…無理に決まってる……。あんなに優しくて謙虚で魅力的な人とひとつ屋根の下で暮らしたら、私にとってはその方を好きにならずに過ごす方が無理な話だったのだと思う。

 でも、それが全ての間違いだったとしたら……。

 私なんか…先生とは出会わなければ良かった? だけど……

 私があんなことをしなければ先生はずっとここに留まってくださったのかもしれないのに。

 それとももしかしたら恋心が元の世界に戻る鍵だった、とか……。まさか……。

 先生は…私のことをどう思っていましたか? なんて、先生がここにいてもいなくても訊くことなんかできないけれど……。

 それなら……。だけど……


 私はだけど結局どうせ、そこに留まることはできなかった。傍にいる時間が長くなるほどに愛も情も深くなって、結局そのままではいられなかったのだと思う。


 はじめは信用していなかった。騙されているのだと思っていた。だけど、少しずつお互いを知って、全然知らなかった世界のことを教えてもらって、興味と尊敬、そして募っていく好意を止めることは不可能だった。

 先生は母との死別に悲しむ私に自分の経験を語り、共感を示して優しく慰めてくださった。私の悲しみを和らげ心の支えになってくださった。

 先生が私を癒したことは変えようのない事実なのに、それなら先生はどこへ?

 今まで、こんなにみずみずしい気持ちで楽しく過ごしたことなんかなかった。幸せでわくわくして、毎日の景色が色眼鏡をかけたようにバラ色で。

 ただ一緒に食事をするだけで、壁の向こうに先生がいる、と思うだけで幸せだった。日常生活の隅から隅まで、一秒だって無駄にせず満ち足りて幸福に包まれていたのに……

 私の過ちのせいで……


 先生、元の世界へ戻られたのですか?

 戻ってきてほしいと思いつつ、でも、もしかしたら……

 先生はもしかしたら…また優しくて大好きだったお母さんに会えたのでしょうか。私はそれなら……



 シューベルトの音楽を流してみる。何か、先生のメッセージを読み取ることができるかもしれない、なんて思って。

 でも、やっぱり素人の私がこういう音楽から何かメッセージを感じるなんて無理、かな……。できないかもしれないし、かなり時間がかかるだろうな……。先生の作品数はあまりにも多過ぎるし、全てを聴き尽くすことは……。

 だけどとにかく、千里の道も一歩から。聞いたことがなかった先生の作品を流してみると、どこがどう、とうまく言葉にはできないけれど、どの曲からも先生らしさが伝わってくる。

 切なく淡いそのメロディが、その存在ただそれだけで、先生が向こうからこちらに何かを伝えようとしていることは分かる。それはもちろん、私に対してではないだろうし、他の女の人に対する思いなのかもしれない。それとも世の中に対して? この世界に向けてのものなら私だって対象の一人、かな……。先生の心を音楽にしたものなら……。

 先生の優しい音楽を聴くと私の心は痛みを思い出す。

 先生の仕草に表情、あのやわらかくウェーブしていた茶色の髪に優しい瞳。現代のあらゆることに驚いていたその反応が子どもみたいに純粋でかわいらしくて、だけどその一方であの控えめな性格は常に冷静さを保ってもいて。

 先生はこんな世界に投げ出されて不安だったはずなのに思いやり深くて私を気遣ってくれていた。瞬間ごとに私に掛けてくれたたくさんの優しく深い言葉。

 一緒に空を見て海を見て思いを語り合ったのに、今はその全ての記憶が小さな刺のように私の心のいろんなところに刺さってそれが悲しい痛みとしてここに残っている。

 寂しくて悲しくて私の心の表面は傷だらけ。ほんの少し動こううとするだけで痛みに怯んでいまだに身動きを取ることができない。

 そうしてうずくまりながら同時に、だけどもしいつか…私の中からこの記憶が消えてしまったらどうしよう、とも思っている。

 忘れてしまうよりはこの痛みがこのままここにある方が良いのかもしれない。


 唯一残っていた先生がここにいた跡。手書きでまだほんの数小節の楽譜

 解読不能だった筆記体で崩れた文字のタイトル。こんなの…読めるわけがない……。楽譜を書く時の先生はいつも急き立てられたような様子だったからゆっくり丁寧に、なんてできなかったのだろうけれど……。

 そんな残された紙切れたった一枚。音符は単純な長調で単音のやさしい旋律。その音を鳴らす度にピアノから先生が何かを愛でているような、あの優しく控えめな笑顔が浮かぶ。

 毎日その楽譜を前にその音をピアノで鳴らしてみて先生の声の代わりにする。

 喪失感を埋めるためにこの途中の楽譜をただただ見つめる日々。この曲のタイトルは一体……。アルファベットの解読すらできない。最初は M らしい。あとは……

 ここに残されたたった数小節。この先はこういうふうになるのかな、なんて頭の中でイメージしてみる。けれど、この先を作ることができるのは先生だけ。


 何を表現しようとした曲なのか知りたくて、きっとこの曲のタイトルが分かればそれが最大のヒントになるはず。

 だけどただの曲がった線の走り書きを読むことが私には無理で、ヒントにたどり着きたいと思いながらも全然それがつかめなくて……。

 何日もただひたすら見つめて、何かの拍子に読めるようにならないかな、なんて思うだけで解読は一歩も進まない。そして先生を想う。


 見つめるだけでは答えには辿り着けないよね、とため息をついた時、突然思いついた。逆から行ってみよう。いろんな単語を当てはめてみて、いつかぴったりはまるものが見つかるかも。

 超難解なパズルを探すように、いろんな推測を入れてみる。だって一生分からないままよりは気長に行くしかないよね……。

 そう思っていたけれど、意外と早くある日突然、そのパズルがはまったかもしれない感触。ようやくもしかして。ある言葉にたどり着いた。

 この曲のタイトルは…Meine Liebste ではないかな……。

 Meine Liebste

 この言葉をスマホに翻訳させてここに辿り着いた時、私の心は先生に出会ったあの猛暑の楽器店に舞い戻っていた。

 Meine Liebste 最愛の人

 最愛の人……。私のことではないかもしれない。もちろん私のことではない、ですか、先生…? でも、先生……


 先生の音楽には先生の苦悩や喜び、愛も不信も神への賛美も。いろんなものがあって、だからそれなら時には恋心だって……。

 先生……

 先生からは直接的な言葉を聞くことができないまま私達は突然会えなくなって……

 先生、どうか……。もう一度、戻って来て、あの優しくやわらかい声で私にお話ししてくださいませんか。


 先生、この書きかけの曲のタイトルは……


 もう会えない先生を思う。

 空を見上げる度に、先生は自分の世界とこの世界は同じだ、とつぶやいていた。空が美しくてうれしい、と言った先生のことを思い出すと私は切なさで苦しくなる。先生が私を優しく抱き締めてくださった時のあの感じ。

 寂しくて愛おしい。あの感触がまだ私の中に残っているのに。私が先生と過ごしたのは事実。私達は同じ世界にいる。

 だから……

 先生。先生に会いたいのです。どうかもう一度……





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シューベルトと過ごした夏 岸野るか @pflaume1707624

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