3

 家から離れながら、少し後ろを歩くロイにコリクソン特等は言う。


「この辺、タクシーは走っていないんだな」


 開口一番に何を言われるのかと思ったが、紡がれたのはそんな言葉。


「帝都じゃありませんからね。自家用車を持っていなかったら基本はバスです……どこか行くところでも?」


 探るようにそう問いかけると、彼は言葉を詰まらせるように間を空けてから言う。


「62支部だ。元々の目的地でもある訳だし……此処では話しにくい事もある。申し訳ないがそこまで同行して貰えると助かるな」


「ええ、構いませんよ」


「ありがとう。さて、どうやって向かうか」


 このまま家の近くで待っていればアイザックが向かってくるのは分かっているのだが、車から飛び出して此処まで来たという話をコリクソン特等がこちらに隠している以上、その車を運転していたアイザックからの情報は表に出さない方がいい気がする。

 彼自身の発言に大きな違和感が生まれてしまうからだ。

 どうしてアイザックが行き先を把握していたのかという事も含めて。

 故にアイザックには自宅の方で事情を聞いてから、支部に戻ってきて貰った方が良さそうだ。


 今はとにかく、コリクソン特等をリタから引き離す事を優先する。

 此処ではしにくい話というのは十中八九そういう事だろうから。話が拗れた瞬間に最悪な事態に発展してしまわないように。


「ちょうどそろそろバスが来ます。それに乗れば支部のすぐ近くまで行けますよ」


「ナイスタイミングだ。運が良い」


 そう言う割にはあまり気が乗らなそうな声音のコリクソン特等と共に近くのバス停にまで移動する。

 バスの時刻まであと三分程だろうか。彼の言う通りナイスタイミングと言える。

 いや、出きればもう少しギリギリを攻めたかった。


「……」


「……」


 空気があまりに重い。

 此処で本題に入るつもりは無いようだが、それでも彼が秘密を知ってしまった以上、こちらが秘密を知られた事を知っている以上、明るく談笑しろという方が難しいのだ。

 アイザックなら誰であれ、どんな状況であれその辺の事はうまくやれそうだが、今の自分には難しい。多分下手な事を話すとボロが出る……この空気の重さはどうにかしたいけど。

 そう考えていると、コリクソン特等も同じ気持ちだったのか重い口を開いた。


「ロイ君……ガムでも食べるか?」


「あ、いえ、大丈夫です……」


 それだけで終わってしまったけど。

 ただそんな一言や、醸し出す空気で分かったことが一つある。

 コリクソン特等からは、こちらに気を使うような。

 配慮するような強い意思を感じる。

 ただ分かったのはそれだけで。

 これを、このまま味方に引き込めそうだと受け止めれば良いのか、それともこれから行う事に対する罪悪感の発散のような物と受け止めれば良いのか。

 彼の意図を含め、その辺りの事は何も分からないままだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る