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 診療所の駐車場に車を止めて外へと出る。

 診療所の入り口には本日臨時休診と書かれた張り紙が張られており、家の中で何が行われているのかを察する事が出来た。


「じゃあ行こうか」


「ええ」


 足取りが重いか軽いかすら分からなくなっていた。

 緊張感があると同時に、リタと別れた時点でミカが無事なのは分かっていても、それを自らの目で確認したいという意思が強かったのもあると思う。

 とにかく、そんな足取りで家の玄関を開いた。


「ただいま。アイザックさんも上がってください」


「お邪魔します」


 ロイがそう言ってアイザックと共に玄関を上がると、奥から父が出迎えてくれた。


「おかえり、ロイ」


 そう言った父はこちらを見た後にアイザックに視線を移し、少し目を瞑った後、色々と察したように言った。


「これは……ロイも知ってしまったという事で良いのかな、アイザック支部長」


「ええ。だから彼を此処に連れてきました」


「リタは」


 心配するような声音でそういう父にアイザックは言う。


「あの子も知ってしまいましたよ。それで勝手ながら今日は連れて来るべきではないと判断しました。今はウチの方で保護させて貰っています」


「……分かりました」


 そう言った父は再びロイに視線を向ける。


「ロイ。お前は大丈夫か?」


「大丈夫だよ」


「……大丈夫じゃないな」


 一瞬でそう見抜く父は踵を返す。


「とにかく二人共中へ」


「ミカは……ミカは大丈夫なのかよ」


 父の元に歩み寄りながら問うと、少し間を空けてから答える。


「今は落ち着いて眠っている」


「今はって事は……」


「……今日は朝から調子が良かったんだが急に倒れてな。正直な事を言うと危なかった。今だって絶対安静だ」


「……一回顔見ても良いか?」


「当たり前だろう。どの道、母さんもそこに居る」


 そう言う父と共に向かったのはミカの部屋だ。


「僕は部屋の外で待つとしよう。まさか此処で長話という事は無いだろうしそれに、此処には部外者は立ち入ってはいけないと思うからね。何せ人様の家の娘さんの部屋だ」


「お気遣い感謝する。ただキミは言う程部外者かね」


「部外者さ」


「まあ良い」


 そう言って父は部屋の扉を軽くノックする。


「入るぞ。ロイが帰って来た……もう全部知っているそうだ」


 そう言いながら開かれた扉の先に二人は居た。

 椅子に座る疲れた様子の母と……ベッドに横になるミカだ。


「お帰り、ロイ……辛い物を見たでしょ。大丈夫?」


「俺は大丈夫だって」


「大丈夫じゃないわね」


 自分はそれ程顔に出やすいのだろうか?

 それとも自分が思っている以上にメンタルがやられているのか。


「リタは?」


「そこにアイザック支部長も居る。彼から聞いたが62支部の方に居るらしい……リタも知ってしまったそうだ」


「……そう。できれば来ないでほしかったわね、こういう日は」


「そうだな」


 そんな二人の会話を聞きながらベッドの方に歩み寄り、眠るミカに視線を落とす。

 父が言った通り今の所ミカの容態は安定しているのか、ぐっすりと眠っている様だった。

 小さな寝息が、ミカがまだそこに居てくれているのだと安堵させてくれる。

 ……そんなミカを見下ろしながら、二人に問う。


「……ミカも知ってたって本当なのか?」


「ああ、そうだな」


 父はその事を認めた上で言う。


「しかも俺達とは違い、自力で答えに辿り着いた」


「……」


「その辺りの事はこれからゆっくり話しましょう」


 母は言う。


「ロイ、あなたが今家に戻って来た理由は二つある筈。一つはミカと顔を合わせる為……それから、知らない事を全部知る為。違う?」


「有ってるよ」


 今からどうするべきかを知る為に。これからどうするべきかを知る為に。

 家族の事を知る為に。その為に帰って来た。


「俺が此処に残ろう。事をより詳しく正確に話すには、俺よりもお前が適任だ」


「分かったわ。何かあったら呼んでちょうだい。行くわよロイ」


 そう言って母は父と入れ替わるように立ち上がり、部屋から出る。

 それに着いていきながら、部屋を出る前にもう一度振り返り父に言う。


「次からは何かあったら俺にも言ってくれ。頼むから」


「分かってる……今まで悪かったな」


「いや、俺達に気ぃ使ってくれてたんだろ。謝られるような事じゃないって」


 そう父に返してから。ちゃんと言いたい事を言ってから部屋を出た。

 ……これから正しい意味でこの一件の関係者となる為に。

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