依頼1 あなたはどんな顔?

昨日チラシを見てから俺はずっと悩んでいた。誰かに悩みを相談すれば心が軽くなるとは聞いたことあるがどうなのだろうか。「相談無料!」と書いてあったのも少し気になっている。

「また貼り紙だ…」

俺の目に入るために帰り道に多く貼ってあるように思えてしまう。もしかしたら俺が探してるだけなのかもしれない…

「ここの近くなのか」

奇跡なのか俺の通学路の途中にあるらしい。帰っても特にやることがないので行ってみることにした。

「何か想像通りの見た目だな…」

相談屋とやらは街にあるような探偵事務所のような、弁護士事務のような想像しやすい見た目だった。

「怪しいところじゃないだろうな…」

不安を持ちながらも俺はインターフォンを押した。

「どうぞー」

気さくな男の声がした。俺は恐る恐る中に入る。

「初めてのお客さんかな?今日はどうした?」

中にいたのは若いようなでもピチピチないような年齢の男だった。スーツを着ているが着崩していてしっかりしてるイメージはない。

「貼り紙見て来まして。相談屋ってのも気になったので」

隠しても仕方ないので正直に話した。

「そうか、そうか。君は高校生だな?何か悩みごとか?まあここにくるってことはそうだろうけどな。恋の悩みか?人間関係か?なんでもいいぞ」

男は明るく話してくる。

「いや〜、まあ思春期によくあるような悩みで」

俺が少し茶化して言うと男は急に真面目な顔になった。

「悩むことに年齢や時期は関係ないぞ。たしかに多感な時期だとは言われるがそれは人格を形成する上で大切で必要なことだ。それを思春期だからって否定してはいけない」

俺は驚きで声が出なかった。正直これまでの大人のように思春期だからと一蹴されるのかと思ったからだ。男はさっきのような明るい顔と声色に戻り続けた。

「それで?何に悩んでるんだ?言うだけタダだぞ」

「お金とか取らないのですか?」

思わず聞いてしまった。相談屋と謳っているのである程度相談で金を取るものだと思っていたからだ。というか取るだろ。

「話を聞くだけで金取ってたら誰も来ないだろう。というか貼り紙にもかいてなかったけか?」

まずまずあんな怪しい貼り紙だれが信じるんだよ…。そう思いつつ男と話してる内に警戒心は解けていた。

「つまらない話だし厨二臭いですけどいいいですか?」

男の顔色をうかがいながら聞く。すると男が

「なんだっていいんだ。それに悩みにつまらないも厨二臭いも何もない。悩みは悩みだ。気にせず話してくれ。それに敬語はなくていい。その方お互い楽だろ?」

少し明るくでも真面目に話してくる。俺の目をまっすぐ見つめて、向き合ってくる。

「ありがとうございます。じゃあ言うけど、俺には自分がないんだ。人と関わるための自分があっても、素の自分がないというか、心の底から好きなものが無くて人に無関心で。人に嫌われないための仮面はあっても仮面の下は顔のないのっぺらぼうのような感じだ。好きや嫌いっていうのはあってもそれを目的に頑張れたりとかの原動力にもならない。友達や異性も良いなって思うことはあってもその人たちを愛することはできない。俺って人間はなんなんだろうって思うんだ。相談というより愚痴っぽくなってしまったな…」

俺は所々も端折りながらも今思ってることを話した。悩んでいることを全て。だが聞いた当の本人は黙りこくっている。やはり少し引いたのだろうか。少しの沈黙のあと男が口を開く。

「少し失礼かもだが、君親との関係はいい方か?」

その質問に少し背筋が伸びた。一言も言っていないのに親と何かあるというのが見抜かれた。

「一般より良いとは言えないっす」

「すまんな…」

そう言うと男は少し申し訳なさそうに謝った。そして男は続けた。

「たしかに教育環境によって人格は結構決まる。そういうことで言うなら原因はほぼそこだろう。君はそれをどうしたい?」

「どうしたいか…。俺は…」

正直わからない。たしかに周りと違って感じられないことが多くあり自分の兄弟、双子に対して劣等感を感じる。でもどうやったらいいかわからない。治せるなら治したいものだ。

「どうにかしたいが、どうすればいいのかわからない…」

俺がそういうとまた男は少しの沈黙のあと口を開いた。

「俺が一つ考えてるのは、経験値を積むことだ」

「経験値?」

俺は少し怪訝な顔をする。RPGじゃないんだしそんなものでなんとかなるならもうなっていそうだが…

「親との関係が良くないと、愛情を十分に注がれないとお前みたいな事例が生まれることがある。俺はそこで思った、人の心とたくさん触れ合えばどんどん気持ちっていうのを学んでいけるんじゃないかと。」

俺は相槌はうたずとも男の話をきいた。

「君さえ良ければなんだが、うちでバイトしないか?」

「…ここでか?しかもバイトつっても何をすれば」

「俺のサポートをするだけでいいんだ。もちろん給料も出す」

どうだ?と男は聞いてくる。俺の心は揺らいでいた。少しの時間しか話してないようなやつと、怪しい場所でバイトだなんて、しかも客が来るのかもあやしい。だが男の言葉には謎の自信と安心感が溢れ出てる。俺は少し逡巡したあと答えを出した。

「合わなかったたらやめるけどいいか?」

俺の答えに男は嬉しそうにして笑う。

「もちろんだ!」

そう言って強引に握手をされた。

「君、名前は?」

今更、俺の名前を聞いてきた。特に言わない理由も無いし、バイトする以上必要だろう。

「俺は佐藤歩だ。あんたは?」

「俺は山口亮太郎だ。よろしくな歩」

こうして俺はいかにも怪しいと思っていた相談屋でバイトをすることになった。

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